「恋って、実際にするとどんな症状になるの?」
「……ん?」
俺の所属しているアジトへ補助に来た肩で切り揃えた黒髪の女を見上げて訊ねてみた。
そんな質問を、リベンにもしてみた気がする。リベンは「相手が欲しくて、大切にしたくて、ずっと側に居たくなること」と答えた。双子なのだから、恋愛感情だけでも似るだろうと思えばそうではない。見た目が同じでも中身は天と地程の差だ。
「……尽くしたくなる、とか?」
ああ、ハズレ。これも違う。
俺が恐らく好きだと思う女へ向ける症状ではない。
大切にしたい? 尽くしたい? それは少しだけ違う。側に居たい? 相手が欲しい? 近からず、遠からずだ。
「……知り合いにこんな奴がいるんだよ。手に入らない女を支配するのが好きなサディスト」
「……手に入らないのがいいんですか?」
「みたいだよ。あくまでなびかない相手を自分だけが好きなようにするのがいいんだって。いまいち理解出来なくてさぁ。それって、愛だと思う?」
嘘と本音を混ぜて、君へ毒をプレゼント。あけた後の反応で、俺の行動は決まるだろう。
「カマキリのメスは、オスを食べちゃうんですって」
「……それマレにだし、なにより産む卵の栄養を蓄えるためだよね? 話に関係ある?」
「それは人間が観察した結果だし、カマキリの気持ちは理解できてないじゃないですか」
「カマキリにそんな知能はないよ」
「どうでしょう? もしかしたら……あるかも、ですね」
「…………」
「カマキリは、私達人間と体の構造や育ち方が違うから全く理解できない。だけど、人間はちょっと体の構造が同じってだけで相手は私と同じだって思っちゃうんですよねー…。育ち方は全く違うくせに」
くすり、と優ちゃんは笑って書類を確認し続ける。
今この女の腕を引いて、地面に叩きつけて、無理矢理服を剥いで柔らかな肌に噛みついたらどんな顔をするのだろうか。生唾を飲み込むことさえ、堪えた。この感情を悟られれば、きっと臆病な彼女は俺から逃げる。
「理解なんてしなくていい。感じればいいんですよ。そして、そういう愛もあると受け入れればいい。皆違って、皆いいんだから」
「……そいつはね、その女を監禁して、手中におさめたいんだよ? それでも足掻こうとする姿に興奮するようなキチガイ野郎なのに」
「そーいう人もいますよ。好きな人は近づく。嫌な人は離れていけばいいだけ。クロウさんは近づかない方がいいかもね」
近づかないも何も、俺のことだしな、と内心で冷笑した。
優ちゃんやリベンの様な、優しくて甘くて普通な恋愛はできる気がしない。むしろ、抱けないのだ。
何も知らない。幸せに包まれて生きてきましたと言わんげな少女を汚すことに興奮する。手に届かない様な女を地に引きずり落として踏みつけることに興奮する。それは誰かではなく、俺だけのテリトリーで俺だけがしなきゃ意味がない。
ああ、リベンにでも煽ってみるか。俺もリベンも恐らく、目の前にいる高嶺の花……見た目はそうではなくても、絶対手に入らない女を好いていた。俺が鞭で、リベンが飴になればいい。リベンに惚れてもいいよ? リベンは、大切な弟だから許す。それに、利用できるし俺に忠実だからね。
「……なら、上手くやらなきゃね」
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