番外小ネタ | ナノ





 恋愛とは、薬だ。
 恋をすると女は美しくなるという。それは、その人にとって恋は即効薬になったからだろう。
 だけど、私は違う。

「信じてくれ。俺は、お前が好きなんだ」

 真っ直ぐな言葉は、私には曲がりくねった刃に見えた。どすりと胸に突き刺し、心臓をえぐるみたいにぐさぐさと抜き差しされるそれに、歯をくいしばる。

「……飛鳥ちゃんと、結婚してたでしょ」
「今の飛鳥は、兄貴の女だ。振られた女の後を追い続けるなんて不毛なことしたくねぇ」
「諦めなければ、恋は叶うよ」
「あ……そ、そうじゃなくて! 確かに飛鳥は大切な存在だ! だけど、その、お前も大切でっ! つか、俺はお前のこと好きなんだ! 頼むから、信じてくれよ!!」
「……妥協してでしょ」
「違う!」
「でも飛鳥ちゃんのこと大切なんでしょ」
「うっ……」
「帰って」
「……明日も、来る。俺はずっと、お前が好きだから」

 そう言い残して去るリベンくん。明日も、明後日も、同じ結果なのに。リベンくんは、私に劇薬を射ち続ける。

▽△

「飛鳥のことは大切だけど、それ以上にお前が大切なんだ。大切にしたいんだ」
「飛鳥ちゃんに悪いと思わないの?」
「うぐ」

 時には、冷たい言葉で突き放した。

「飛鳥にも、自分の気持ちを偽るなって言われたんだ! 引けるかよ!!」
「頭、冷やしてきなよ。ヤケになってるだけって気がつくから」
「俺は真剣なだけだ!」

 時には、侮辱した。

「ここまでして、何で止めないの。意味がわからないし、意味もないよ」
「惚れた女が、ここまで苦しんでるのに別の女に行くなんて、男じゃねぇ」
「意地になってるだけじゃない。愛なんてない」
「セックスしたいっつったら信じるかよ!」
「えっち。変態。性欲魔」
「うぐっ!? だ、だからぁ!!」

 たまには、呆れた。


「私のどこがいいんだか」
「全部」
「私は私が大嫌い」
「なら、俺はお前の全部を愛する。これでプラマイゼロだ」
「……ないわ」

 たまに、否定した。


「おはよう、優。今日こそ、俺に好かれてるの自覚してもらうぞ」
「優は優しいんだよ。本質的に、人を傷つけられない。人を気遣ってしまう。そういう所が、一番好きなんだ」
「辛かったよな。苦しかったよな。もう大丈夫だから。俺が、お前を守るから」
「好きだよ、優。世界で一番、お前を愛してる」

 言葉に、行動に溶かされそうになった。否定していた心が動揺する。信じたくなる。だけど、なにより私はその言葉を飲み込むことが怖かった。信じてしまえば、自分が急激に変わってしまうような。それについて行けず、心が壊れてしまいそうな予感。


「おはよう、リベンくん。今日も無駄に頑張ってね」
「本当に優しいのはリベンくんだよ。私を見捨てたくないんだね。私は平気だから、もういいんだよ?」
「これは私のせいだから、自業自得だから。私が背負うべきことだから、リベンくんには関係ないよ」

「飛鳥ちゃんは、宇宙一かしら?」


 ああ、だめだ。
 きっと、いつか私は折れる。こんなこと続けても無駄だと気がついてる。
 貴方はめげないと安心して、毒を吐いてしまう。


 リベンくんが来なくなった。たった一日。けれど、一日だ。
 ぽっかりと穴が空いたような気持ちに、すがり付きたいほどの愛しさが溢れる。何時だって、気がつくのが遅すぎた。

 もし、もう一度チャンスがあるならば、私は彼を受け入れよう。嫌われる不安よりも、信用できない不安よりも。


「優」


 貴方が居ない世界で生きることに耐えられないから。


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