番外小ネタ | ナノ







「日渡先輩って、リベン先輩のこと好きですか!?」
「え? 別に。あ、後輩としては普通に好きだけど」
「ほらー! やっぱり違ったよ!!」
「でも、リベン先輩と日渡先輩が付き合ってるって噂……」
「え? そんな噂流れてるの? デマだから安心して」
「やったー!!」


 初耳だ。リベンくんと私が付き合ってるなんて噂が流れてるなんて。
 射的部に入部してきたリベンくんはどっかの国出身らしく、金髪に碧眼と少女の夢をつめいれたイケメンだった。……中身は不器用で言葉足らずのいい子なんだけどさ。

 ま、女のコがそう私に聞いてくるってことはリベンくんのことが好きなンだろう。可愛いねぇ、青春だねぇ。


「……日渡先輩! 良ければ、その、きょ、協力してくれませんか!」
「いいよ。だけどさ、部活中はちゃんと部活に専念してね」
「は、はい!」


 ……とはいえ、私は何を手伝えというのか。
 後輩曰く、私とリベンくんの一緒にいる時間が長いらしいのでそれを減らしさえすれば、いいらしい。そんな馬鹿な。そこまで一緒にいたか?


「先輩、はよーございます」
「先輩。またこんなとこで寝てるンすか」
「先輩、そこ違います。この角度の方がいいっす」
「もう遅いし、途中まで送るっすよ」


 あれ、めっちゃ一緒。
 気がつけばリベンくん隣にいなくないか? そりゃ噂もたつわ。これはマズイ。
 いくらリベンくんが私になついてくれてるのか、できない私に親切にしてくれてるとはいえ、このままでは甘い学園生活が送れなくなる。それはひじょーにマズイ!!
 ということで、離れるようにした

 朝は行く時間を早めたが、何故か遭遇。次の日道を変えて対策した。
 昼休みは何時ものスペースに行くのを諦め、理科室へ向かった。竹松くん優しい。

 やっべ。ストレスたまる。人に制限されるの無理だ。
 はやく両思いになってくれないかな、なんて部活中思っていたら、ふと隣にでかいのが佇んでた。


「!?」
「……ちわ」
「あ、こんにちは……?」
「最近、なんかありました?」
「え、ないよ?」
「…………先輩、あんた嘘」
「リベンくん、あの、教えて欲しいことが」


 ああ、やっときた。
 後輩がリベンくんに近寄ったので、胸を撫で下ろしてその場を離れようとしたら、リベンくんが私の腕を強く握りしめてきた。


「いっ……」
「逃げんじゃねぇっすよ」



 怖かった。背筋が、ぞってした。
 私を睨み付けるリベンくんは怖くて、何時もよりさらに低い声に萎縮してしまう。だけど、リベンくんはそんな私の様子に気がつかない。


「……り、リベン先輩。日渡先輩、怖がって……」
「るせぇ」
「ひっ……!」
「如月のお遊びか? 俺が気に食わないのか? なぁ、何とか言えよ」


 怒鳴らず、ギチギチと腕を握りしめてくるリベンくん。眉間にシワをよせて我慢しながら、私はつよがるように笑った。


「リベンくん。今は部活中だよ」
「…………」
「先輩は逃げないし、何時でも相談受け付けるから。あと! 如月くんはかんけいないんだからね!」


 無言だったリベンくんの目が、だんだん穏やかになる。力が緩んだ手から抜け出せた腕は、リベンくんの手形に染まってた。


「……すんません」
「わかればよろしい! 私も変な態度とってごめんね。さて、部活だよ部活!!」


 切り替える様に手を合わせて、部活を再開させた。
 とはいえ、雰囲気はよくなるものではない。
 結局、私とリベンくんは最後まで会話することなく部活が終わった。というより、部活が終わる頃にはリベンくんとの口喧嘩? の名残がなかった。
 ここでリベンくんと後輩ちゃんが接近すれば上手くいくのではと考えたのが間違いだったらしい。


「申し訳ないけど、林檎ちゃん。お片付けしてくれないかな。ほら、リベンくんにもお願いするし」
「あ、や、だ、大丈夫です!!」
「へ?」
「もう協力いりません! 失礼します!!」


 慌てて帰ってしまった後輩ちゃんの背を見送り、ポカンと口をあけていたら、背後からまた、あの声……いや、ドライアイスが着火したような雰囲気のリベンくんが口を開く。


「どーいうことかと思えば……やっぱり理由あったんじゃねぇかクソ野郎が」
「え、ええと、あのね、リベンくんにも春が訪れると」
「余計なお世話だ。いらねぇことしてんじゃねぇよ……!!」
「ご、ごめんなさい」


 リベンくん、結構怒ってる。
 それから無言になるリベンくん。私は帰れるはずもなく、道場に二人きりになってしまった。怒鳴られるより無言のほうが心臓にわるいって本当だね……。


「反省してないな」
「そんなことは……」
「は?」
「…………」
「……俺は、好きな女がいるんだ。他のやつとどうこうなる気はない」

 ため息をつくように、呆れた口調でいうリベンくん。……あ、好きな人いたんだ。じゃあ、本当に余計なことだったんだ。


「……わかった。でもさ、モテたいとか」
「おもわない」
「……そっかぁ」
「……先輩だって、好きな奴以外に迫られて、嫌でしょ」
「そうでもないよ。モテキも告白されたこともない独り身だからね。リベンくんくらい格好よかったらな」


 次の瞬間、腕を引っ張られた様な気がした。視点がぐるりと変わって、天井とリベンくんの顔が目にはいる。
 かと思えば、リベンくんの顔が近づいてきて、唇にギリギリ触れない位置に止まった。


「……こうされてもいいのか」
「ちょ、リベンくん?」
「……下品な男が多いんだ。責任もないくせに、気になる女の体に触れて気持ち良くなりたいだけの奴も少なくない」


 吐息が唇にかかる。というか、リベンくんの声が、凄く……えっちだ。


「……好かれたいって、お前の場合そういう危険もあるんだぞ。それとも……えろいことしたいの?」
「な、ないないない!! ま、ままままま万が一の話!! 私を好きな人なんていないから!!」
「…………」
「大丈夫だから、ね? でもリベンくんがいやって気持ちは十分伝わっ」
「この状況でそこまで言えるなんて、頭に花畑でも咲いてるんだな」


 リベンくんの手が、私の腕を掴む。腕を払おうにも固くて、無理だった。


「……好きじゃねーのに、ここまでするかよ」


 ……逃げようとした体が止まった。
 リベンくんのセリフは、つまり私を好きだという意味になる。……友達という意味にしてはアダルトな雰囲気だった。
 でもさ、万が一の話、リベンくんは私が他の人に教われないよう忠告してくれたのかも……で、それは好きな先輩だからって、話で。


「……今はしないが、俺だって……先輩とえろいことするの……興味がないわけじゃない」


 はい、アウト。
 あああ、もうでも先輩シチュが好きって場合もある。だから、たまたま私を……いやもっと可愛い先輩いるだろ。
 なんで、私なの? あり得ない。なんで?


「……つーこと、です。もう怒ってないんで……だけど、もう二度としないでください。あと、男には気をつけて。特に如月とか」


 腕から手が離れたリベンくんは起き上がる。私はというと、完全に混乱していた。
 冗談という選択肢はどうだ。いや、でもセックスしたいって……ああ、言ってるだけ。それとも、罰ゲーム? 
 最低なことが頭に思い浮かぶ。自己嫌悪と疑問と困惑でぐちゃぐちゃになりそうだった。


「……嘘だよ」


 =嘘を何故か求めた。
 だって、リベンくんだ。あんないい後輩が、私なんて……。
 みんな私なんて期待してないしできないやつだって分かってる。訳がわからない。助けて。苦しい。人を疑いたくない。痛いよ。誰か、誰か……。


「……どうやったら、信じてくれるんだ?」


 急に、向き直って屈んできたリベンくん。真剣な顔で、私に視線を向ける様子に、思わず視線をそらしてしまう。


「…………リベンくん。嫌いって言って」
「断る」
「私、そんなの分かんないの。好かれるとか、信じれない」
「……嫌だったか?」
「嬉しいよ……だけど、それを信じれない自分がいやで……」
「……言葉じゃ信用できないってことか」
「行動も、からかってるのかなって思う」
「俺がからかうような奴にみえるか?」
「見えない……けど、万が一」
「万が一が何回もあってたまるか。あーもう分かった。行動する。お前、今日うちにこい」
「……へ?」「……親父にあたる人にお前紹介する。で、家に泊まれ。まだ何もしないから安心しろ。その代わり次の日お前の両親に会わせろ」
「い、いや、まって。それじゃ、付き合ってるみたい」
「付き合えるなら付き合いたいけど、とりあえずは娘さんを好きだっていうこと言う」
「そこまでする意味がわかんないよ!?」
「やらねーとお前、ぜってー俺を一生男扱いしねーだろ!? 失恋くらいなら我慢できるが、全く意識されねーってヤケになるもんだぞ!?」


 本当、意味が分からない。
 だけど、何でだろ。すとんって、モヤモヤしたのが消えて胸の中にリベンくんの言葉が入り込んだ気持ち。
 はじめて、人を信用できた。
 ……途端、なんだか近い距離が恥ずかしくて、真剣なリベンくんを見れなくて、二人きりという状況に心臓が早くなる。


「……だ、大丈夫。だから、今日は……帰ろう?」
「はぁ? でもまだ納得」
「したから! ……ね? リベンくん、大丈夫。分かったから……」


 リベンくんが実行するといったことはつまり、少なからず共に行動する時間が増えるということだ。今は流石にまずい
 だけど、リベンくんは引かないとばかりに腕をまた掴む。


「……言ったことをやらねぇって、信用問題に関わるだろ」
「えっ、いや」
「食わない。すげぇ努力する。今まで一切何もしなかったから我慢には自信ある」
「ち、ちが」
「……挨拶か? 挨拶つっても俺が好きだって話をするだけだから。お前に問題はないだろ」
「本気なの正気なの!?」
「言ったからには、やる」
「い、いいよ大丈夫だよ」
「やる」
「リベンくんー!!」


 ……結局、引きずられるようにリベンくんの家へ行って、翌日学校登校したのち本気で私の家に来た。もちろん、年頃の娘が一泊するなんて、いやさせた男だとお母さんは警戒したが、思った以上に好印象だったらしい。流石イケメン。

 ……だけど、やっぱりやりすぎだと思います。


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