「優? あー。あの子鬼神出没っていうかフラフラしてるっていうかマイペースなのか……」
「悪い子じゃないんだけどねー。むしろめっちゃいい子。ちょっとズレてるけど」
「昼休みだし、人混みがない場所に行ってるんじゃない? それより君、すっごいイケメンじゃん。アドレス交か……」
「……行っちゃった」
「何あれ、感じ悪ー」
一つ上の先輩は、自由気ままだ。
きっと、クラスメートが昼ごはんを広げてる間に、人の少ない方へと向かっていくんだろう。
適当に、フラフラとその影を探し求めて、ありがちとは思ったが屋上へ足を向けた。
扉を開けた瞬間、真っ青な空と、アップテンポの小さな音漏れが耳にはいる。給水タンクあたりらしく、屋上のさらに上へと登ったら、レジャーシートを地面にしいて、ヘッドフォンをみみにかけながら寝転ぶ先輩がいた。
「ふぁ」
「……先輩。何してるんすか」
「……ねむー」
「……おい」
「……寝たら起きれないよなー」
「先・輩!!」
「わ、ぁあ!?」
ヘッドフォンをとりあげて呼び掛ければ先輩は跳び跳ねて目を丸め、俺に顔を向ける。
「……あ、あぁ……リベンくんか。びっくりしたぁ」
「……快適なスペースっすね」
「まぁねぇ。前の体育館倉庫は如月くんにとられちゃったし……第二だんってとこ」
「は? とられた?」
「行きたくなくなった、の方が正しいけどね。行く度にヤってるの見かけるっていうか……」
「……見境無いやつ」
「違う違う。如月くんは夜美ちゃんが好きだし、理由も一回ヤったら諦めるとかいう女のコの相手らしいし……そこらへんはお姉さん分からないわぁ」
ケラケラと笑いながら上半身を起こして、水筒に手を伸ばす優。
如月は本当に最低だ。人間のカスだと思う。いやむしろ人間じゃねぇし外道中の外道だ。
「まだ、好きなンすか。如月のこと」
「うん。もー言わせないでよ! 恥ずかしいなぁ」
頬を赤くして、照れたように笑う優。その素振りに毎回胸が締め付けられる。
優を好きになったのは、同じ射的部に入って少ししてからだった。孤立している様に見えて、部員と仲が悪い様子でもない彼女が気になった。
彼女は、他の部員に接するように俺に接してきた。他のけたたましい女共とも違う。
まぁ、自覚したのは弁当忘れた時に優が弁当くれたこと
だけど。たまたま、優が夜美と一緒に弁当食うときだったらしい。夜美は異常に飯作るし……かといえ俺が夜美の作った弁当を食ったら嫉妬で殺しにかかるやつがいる。間違いなく、いる。
そんとき食った飯がうまくて、この人の飯を毎日食えたら幸せなんだろうなって思った訳だ。
この願いが叶わなくてもいい。元は孤児。そこまでの幸せを望んじゃいない。食って、寝て、生きてればそれでいい。
だけど、好きな人はずっと笑顔でいて欲しいじゃねぇか。
「如月なんか、やめちまえ」
だからこそ、如月が憎たらしい。
優の思いに気がついてるくせに、それを利用して優をパシらせたりする。優の居場所を奪う。どれだけ、大好きな先輩を蔑ろにされなきゃならないんだ。
俺なら大切にするのに。俺は、如月よりはいい男だって思うのに。
「それは人の好みかな。如月くんは嫌われものだけどさ、私は正直な如月くんが好きなんだよ」
嘘つきのアイツが正直者? 笑わせる。優は、やっぱり騙されてるだけだ。
だけど、素直に好きだと言える勇気も、今の関係を壊せる勇気もない俺は彼女の好みに該当しない。
「……男の見る目、全くないっすね」
「酷いなぁ。それを言うならリベンくんはどうなの?」
「俺はありますよ。いい女です」
「へー! というか好きな人いたんだね。私の分まで頑張れよ青少年! 青春はあっという間に過ぎ去っていくからね」
お前だよ、馬鹿野郎。
そう言えたら良かったのだろうか。
優の隣に腰掛け、寝そべって空を眺める。
「……何か月がムカついてきました」
「コラコラ。というか昼なんだし、青い空、眩しい太陽を見ようよ。心地よい風を感じるのもいいんじゃない?」
「太陽は好きっすよ」
「なら、日向ぼっこだね」
「……すね。暖かくて好きです」
こんな回りくどい言い方で気づくやつとは思わないけど、今は……これで……。
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