人の好意を信用できない。
例え、あの人が愛を語ったとしても、私はそれを信じることは出来ずに罪悪感を募らせるだけだ。……最も、彼は一年に一度、愛を呟けばいい方かもしれない。
でも、確かなことはある。
それでも私はあの人が大好きで、やっぱり愛し愛されるようなことをたくさんしたいんだ。
その日、仕事の関係でクオーレへ同僚の如月くんと一緒に向かい、クロウくんを見かけた。クロウくんはちょうど、女の人と一緒で、その人に別れを告げてこちらに歩み寄ってくる。そしたら如月くんが「いい男も大変だなぁ。で? どこまでいったんだ?」ってケラケラ笑うもんだから、恥ずかしくて視線を落とした。クロウくんが「どこまでいかずに殺せるか、だけどね」と呟きながら私に視線を落とした。如月くんは「なーに純情ぶってんだ。どーせリベンとはめあってんだろ」って言ったもんだから、想像……してしまって真っ赤になったんだ。そしたら、二人して目を丸め、私にリベンさんとどこまでしてるか聞いて……顔を真っ青にしてる。
「まだセックス……というよりキスすらしてねぇの。お前ら……」
「…………俺が知ってる限り、二年は付き合ってたよね……?」
「……私に魅力がないからかな。仕方ないよ」
誤魔化すように笑う。でも、やっぱり普通ではないよね。
「手を繋いだり、だきしめあうのも……」
「たまに、かな?」
「……最後にされたのは何時だ?」
「……えーーーーと……えと。だ、抱きしめることにはいるか分かんないけど、十二月に羽織をかぶせてくれたよ。それに、怪我したときは触れてくれるし!」
「もうよせ、こっちが辛くなってきた」
「……リベンって、本当に俺と同じ血流れてるのかな……」
散々な言われようである。
深刻そうに、顔を見合わせる二人。そして如月くんは。
「……まだ、リベンは童貞で優は処女なのか」
「…………こ、言葉にしないでよ!?」
「優ちゃんが嫌がってるわけじゃないの?」
「わ、私も人間だし一人の女で、い、言わせないでよ!!」
「此方がわにヤる気はあると。じゃー、リベンがはやい段階でお前に飽きたけどなぁなぁか、それとも付き合ってなかったか自然消滅か……」
「…………」
「そういや、リベンのベッドの下にエロ本あったかも」
「クロウくんその情報詳しく聞いて良いかな!?」
何で、男にまじって下ネタトークをしなきゃならないのか。
立ち去りたかったが、クロウくんが興味深いことを言ったから引き下がれなくなる。たじろくクロウくんに私は詰め寄った。
「ど、どんなタイプ? 好きな傾向は?」
「……日本ものだったし、アイツ、ノーマルだから……ああ、でも巨乳もの多かったかな」
「…………何? 挟めば良いの?」
「優ちゃん。落ち着こ? 目が死んでるし据わってる」
「乳だけはあるんだしいけんじゃね? もう真っ裸になって襲えば?」
「嫌われたくない……っす」
「あー? 好きな女に迫られて嫌う野郎なんか男じゃねぇだろ。好きなやつがエロいくらいでドン引くなんてちいせぇやつだな」
「や、でも……」
「ちっ。面倒くせぇ。適当にその服破いてやるからリベンとこいけよ」
「はっ!?」
短刀を取り出して、ゆっくりと私に歩み寄る如月くん。逃げようとしたら、右手を捕まれてしまった。
如月くんなら、肌ごと切りかねない。ギュッとまぶたを閉じれば、電話でよく耳にする声色が聞こえた。顔をあげれば、眼光を鋭くさせたリベンくんがいる。
「……リオ。そいつに何する気だ?」
「り、リベンく」
「服をボロボロにしようとしただけだ」
あっけらかんと答える如月くんが私の背中をリベンくんへと押した。よろめく私をリベンくんは受け止めてくれたが、それは一瞬で、体制を整えたら私から離れて如月くんへと近寄る。
「……ジラ。部屋に戻ってろ」
「え。でも……」
「さっさとしろ」
怖い顔で、リベンくんは私を睨み付ける。
嫌われたかな、嫌なことしたゃったかな。こみあげる涙を我慢することなんてできなくて、私は逃げるように客間の方へと立ち去ってしまった。
▽△
「……で、何があったんだ? リオ。アイツはお前の仲間だろ? 傷付けても、何の利益もない。殺るなら、指名手配を狙えよ」
「そんなの、俺の勝手だろ?」
ニコニコと貼り付けたような笑みを浮かべるリオに、平静を保とうとするリベン。
アイツは賢いやつだ。だからこそ、激昂しないようにしているんだろう。リベンが必死に言葉を選ぼうとしてると、リオは思い出したように口にした。
「あ、そーいやよー日渡の話だけど、飽きたならうちの組織に返してくんね? 売るから」
毛がさかだった猫みたいに殺気を表したリベン。優ちゃんに手を出さないといえど、やっぱり好きなんじゃないか。
「……これ以上、アイツを泣かせる様なことは言わないでくれ。アイツは、お前を好ましく思ってるんだ」
力強く拳を握りしめ、リベンはリオに訴える。
まさか、まだ優ちゃんがリオのことを好きだと思ってるんだろうか。
「知るかよ。俺は俺だ。こーいうクズをアイツは好きになったことあんだろ。いや、優しい俺が好きなのかね?」
「騙すなら最後まで騙しきってくれ」
「騙されたってわかったたとのアホ面がいいんじゃねーか」
悪魔のように笑うリオに、リベンは眉間に深くシワを寄せる。
本当、この二人は凸凹だなぁ。……優ちゃんの好みが読めない。
「まぁ、お前の顔に免じて見逃してやるよ。貸し一な」
「…………わかった」
何を見逃して貸しが増えたのか。世渡り上手なリオに下手なリベンを見ていたら苦笑すら浮かびそうになる。
そうしてたら、リオがリベンに近づき、肩に肘を置いた。
「で、お前さ、日本人の巨乳が好きなのか? 知り合いに何人かいるからそれで発散しろよ」
「………………は?」
「ん? 違うのか?」
リベンは何言っているんだという顔でリオを見ているし、リオもリオで本気で言っているようで首を傾げる。
「……何を、言っているんだよ?」
「いや、だから日本ものの、しかも巨乳ばっかのエロ本持ってるんだろ? 日渡じゃたたねぇなら、知り合いのキャバとかデリヘルくらい紹介」
「何で知ってる!? ま、まて。まて。なんだそれを知ってんだよ!?」
初めてリベンは感情のままにリオの肩に掴みかかって上下に振る。リオが珍しくされるがままになり、親指で俺を指差してきた。リベンの顔は真っ青になった直後に真っ赤になる。
「あ、ああ、兄貴。何で。言うなよぉ!!」
「ごめんごめん。キスすらされてないジラちゃんがあまりに可哀想で、つい」
「え。ジラ? ……ま、まさか。兄貴。ジラに……」
「言っちゃった」
「あ゛ぁあああああああああああああああああ!! ぁああああああああ!! うわぁあああああああ!!」
しゃがみこんで顔を隠すリベンに、リオはとうとう大爆笑。リベンの悲鳴にジラちゃんが客間から飛び出してきてリベンに駆け寄る。
「り、リベンくん! どうした」
「近寄るなぁ!!」
「え゛」
「あ、ぁああああああ!!」
耳を真っ赤にしながら立ち去るリベンに、涙目になりながら取り残されたジラちゃん。お腹を抱えて息も耐えたえに笑い続けるリオ。
「……私、嫌われましたか……?」
「いや、嫌われてないよ」
リベンもリベンで、口下手過ぎるし、奥手でヘタレで頑固過ぎる。ジラちゃんは自分に自信が無さすぎで行動しないし……。
「……どうしようもないね」
巻き込まれるのも無駄な、痴話喧嘩だ。
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