史織のボディーガードをすることになって、分かったことがある。
「……チッ」
「舌打ちしないで下さい」
史織は、異様に男共に好かれている。
俺が目を離した瞬間、男に話しかけられていたり、下駄箱にラブレターなんか毎度のこと。
気に食わねぇ。俺の女が他の野郎の脳内にいることが気に食わねぇ。しかも、だいたいの野郎は盛ってやがる。史織を好き勝手していいのは俺だけだってのに。
「中学の時よりは、これでも減ってますよ」
「はっ!?」
「如月さん……裏で何かしてるでしょう」
「お前に近づいた奴全員にゲーム提案しただけだ。それで史織から離れるとか根性なさすぎるよな」
「……ちなみにそのゲーム内容は」
「タイマン」
殺さないだけマシだと思えよ。
史織が学園生活の中では殺しはするなって言うから仕方なく殺しは止めてやってんのに。他の依頼がきたら殺るが。人を殺すことは止められない。
かといって、史織に嫌われるのは不本意だ。……我慢なんてなんでしなきゃなんねーんだよ。
「…………」
ほっぺたを少しだけ膨らませて、そっぽを向く史織。前より遥かに態度が顔に出るようになってわかりやすいが……何でそんな態度とられないといけねーんだよ。
「お前、俺以外の男にちやほやされて嬉しいのかよ?」
「違います」
「じゃあ何でそんな不機嫌なわけ?」
「如月さんは、私がそこまで信用出来ないんですか」
「はぁ?」
「……それに、如月さん自身も随分女性に人気があるようで。こんな好きでもない男に告白されて喜んでるように見える女より、告白してきた女の方が素直でいいんじゃないですか?」
屋上で、弁当を上品に食べてるようで、容赦なくオカズを歯で粉々にしていく史織。
……コイツ、本当にわかりやすい。
「つまり、俺が好きなんだな。お前」
「ごほっ……!?」
「ハハ。本当に史織は可愛いな。そうだよなぁ、俺のこと、好きでもない告白してきた男よりも遥かに大好きなんだもんなぁ」
「しょ、食事中です! 黙って下さい!」
「じゃあ俺にキスして黙らせろよ。俺がお前の男だって証明になるし」
「しません!!」
「ふーん。したくねぇの?」
「しっ……ご、ご飯に集中させて下さい!」
明らかに話を反らす史織に思わず笑ってしまう。耳まで真っ赤にさせて、本当に可愛い奴。
しばらく史織が飯を食べ終わるのを待って、最後の一口を食い終わった瞬間、俺は史織に紡ぐ。
「俺は、史織とキスしたいけどな」
「んぐっ!?」
「強制はしねぇよ。俺の大好きな史織ちゃんが嫌だって言うんだからなぁ。お前がして欲しいって言うまで、歯がゆいがしねぇ」
口を拭って、潤みつつもこちらを睨み付ける史織。可愛くて可愛くて……。
やっぱり、ぐちゃぐちゃにしたくなるよな。
「俺は好きでもない女に、史織が埋めてくれない穴埋めてもらおうかな」
そう言ったら、悲しそうな顔をして、嫌だ言いたげにこっちを見るんだ。それがもうたまらねぇ。
史織を悲しめるのも俺、怒らせるのも俺、もちろん。
「…………待って、下さい」
愛されるのも、俺だけだ。
「どうした?」
「……あの」
「ちゃんと言ってくれねぇとわからねぇぞ?」
「……うう」
「ほら、史織。お前の願いなら何でも叶えてやるから、な?」
史織をゆっくりと腕の中に閉じ込めると、史織はうつむいて、震えた手で俺の腕の服をつまみ、絞り出した声で呟く。
「…………キス、して、欲しい……です」
そっと頭を撫でて、その手を頬に伝わせ、顎を上に向かせる。そうすると、赤い頬に、少しだけつり目な目を潤ませてまん丸にさせる史織の顔。
――この顔も、俺だけしか見れないもの。
「……いい子だ」
そっと、史織に口付けると、史織は恐る恐る俺の腰に手を回す。
やっぱり、史織はいい女だ。
絶対に、他の野郎にはやらねぇ。
「……史織。この先も、ここでたくさんしような?」
学校の一番上で、史織の見せたがらない姿を見るのも、俺だけだ。
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