番外小ネタ | ナノ





どんな手段をもってしても、欲しいものは手に入れなければ気がすまない。
 普段、どちらかと言えば物欲がない俺がここまで執着しているんだ。何が何でも逃がさない。
 ということで、何が何でも手に入れたい意中の人と両思いになる為のステップとしてデートに誘ってみた。しかし、彼女は恋愛に何かしらトラウマがあるようでなかなか首を縦に振ってくれない。
 ならば、テストで全教科満点ならいいよね? と言ってみた。彼女は非現実的だし、そんなに頑張るならば……としぶしぶながらやっと許可する。

 結果、俺はあり得ないことをやりとげるんだけどね。デートできるなら、死ぬ気で勉強する。


「ちょ……平城はやっ……遅れたか」
「ううん! 寧ろちょっと早いくらいだよ。十分でもはやく会えて嬉しいな」
「……そうだね」


 そして、今に至ります。
 念願の二人きりでお出かけ。しかも定番の遊園地。行ったことなかったし、何より始めて一緒に行く相手が大好きでたまらない田村さんだと思うと天に昇りそうな気分だよ!

 待ち合わせしていた遊園地前にたどり着いた田村さんの服は、どちらかと言えばメンズファッション誌から出てきているみたいにカジュアルだけど、余所の野郎に可愛い服を着た田村さんなんて見せたくないしね! 素でも可愛いのに、また魅力的にでもなれば虫がわくかもしれないし。


「それじゃ、行こっか」
「あ、うん!」


 門へと向かう田村さんの隣を歩ける。凄く、凄く嬉しいはずだった。
 だけど、隣から覗き見た田村さんの顔色は少しだけ青ざめている様で。


「……田村さん?」
「あ、ああ。今日は楽しもうな」


 ぎこちない笑みを向ける田村さんに、高揚していた気分が落ちついてしまいそうになった。
 無理を、させてないかな。田村さんには好かれたいけど、悲しませたくない。
 そんなに、デートは嫌だったのかな。


「来たかったんでしょ? 今日はとことん付き合うからさ」


 ニカリと笑う田村さん。少しだけ、罪悪感はあったけど……やっぱり、大好きな人と遊べるのは嬉しくて、俺も笑ってしまう。


「……うん!」
「で、手始めに何乗る?」
「えとね、俺、かんらんしゃっていうのに乗りたいの」


 ピシリ、と固まる田村さん。何だろう、どうしたのかな。首を傾げてしまう俺に田村さんは苦笑を浮かべた。


「……わるい。私、高いとこが苦手で……」
「……あ」


 そうだ。田村さんは高い場所が無理だったんだ。
 そうなると、遊園地ってチョイスすら間違っていたのではないかと疑いたくなる。
 ああ、もっと下準備をすべきだったなぁ……。


「あ、いや。せっかくだしさ……乗るよ」
「いや、無理はさせたくないよ……」


 遊びに来たのに、気まずい雰囲気になってしまった。やっぱり、強行突破は難しかったか。
 だけど、進展しないなんて絶対に嫌だったし、他の奴にとられたくなかった。
 そうだ。諦めちゃいけない。


「……高い場所がないアトラクションに行ってみようよ!」
「……え」
「何があるかな? 俺、遊園地始めてでね。あ、田村さん!あのお馬さんとか乗ろうよ。ね?」


 田村さん、笑って。
 もっと、もっと笑って。
 俺の隣で、幸せになって。
 それが、俺にとって一番の幸せなんだ。


「……おう」
「じゃあどっちが先につくか勝ぶっはや! スタートダッシュはやいよ田村さん!?」
「私に勝負を持ちかけた方が悪い!!」
「もー!」


 仕切り直しとばかりに、俺と田村さんは色んなアトラクションに向かった。
 アスレチックだったり、鏡の間だったり、車みたいなのとか電車みたいなのに乗ったり、シューティングゲームとか。
 時々、触れそうになると田村さんが跳び跳ねるように離れるのは悲しかったけど、やっぱり田村さんの時間を独占してるのが、彼女を笑わせているのは自分であり、それが自分だけしか見れないと思うと嬉しかったんだ。


「はー。結構回れたね」
「だねー。俺、鏡の間好きだったなぁ。田村さんがいっぱいで面白かった」
「平城が鏡に顔からぶつかる瞬間は確かに面白かったな」
「ちょ、止めてよ恥ずかしいよ……」


 たくさんの鏡がある部屋では何処が道か分からなかっただけなんだ。そう心の中で言い訳をしていると、突然鋭い目付きをした田村さんが、ダッシュでその場を後にした。何事かと前に顔を向ければ、田村さんが向かった場所には不良みたいなのに絡まれてる女の子二人組がいる。


「女二人で寂しいだろ? 俺達が付き合ってやってもいいぜ?」
「あの、大丈夫で」
「人の行為を素直に聞き入れなきゃいけないだろぉ? お兄さん達優しい人だからさぁ。君達のヘルプセンサー感じちゃったわけ」
「奇遇だね。私もだ」
「は?」


 女の子と不良の間に割りはいって、不良を睨み付ける田村さん。一瞬、何が起こってるか分からなくて動けなかったけど、やっと意味がわかって俺も田村さんの方へ駆け出した。


「は? 何邪魔してんだよ。部外者は引っ込んでろ」
「君達。逃げな」


 田村さんの言葉でも、すくんでいるのか彼女達は動かない。不良が田村さんに手を伸ばそうとして、慌ててその手首を掴んだ。ま、間に合った。セーフ……!!


「……っ!?」
「この子に触らないで。俺の大切な子なんだ」
「は、はぁっ!? ホモかよ!?」
「遊園地より眼科にでも行きなよ。田村さんは女の子だ」


 こんな可愛い女の子が何処にいるって話だよ。なんで皆、男と間違えるかなぁ……。ま、田村さんの可愛さは俺だけが知っててもいいんだけどね。
 不良は俺の手を振り払って、一歩後ずさる。そして、くつくつと下卑た笑みを浮かべて田村さんを指差した。


「そいつが女ぁ? お前も相当スキモノだなぁ?」
「……は?」
「そいつが例え女でも、隣に起きたくはないねぇ。今みたいにお前もホモに見られるぜ?」
「…………」
「しかも彼氏ほっといて、女を助けようとするお節介な男女。むしろ、女と出来てんじゃねぇの?」


 ……ああ、煩わしい。
 せっかく、沙弥ちゃんとデートに来たのに。
 せっかく、沙弥ちゃんが彼女を助けようとしたのに。
 せっかく! 沙弥ちゃんを笑顔にしようとしたのに!!


「はは。いくらさぁ……俺だけが知ってればいいって言っても……それは、沙弥ちゃんに全く関係ないやつら限定なんだよねぇ」


 一歩、奴に近づけば不良は怖じけ付いたのか、また距離をとる。それを許さないと距離をまたつめる。そうしていくうちに馬鹿らしいけど、アイツは背を向けたんだ。だから。
 首根っこを掴んでぶん投げてやった。

 そいつはボウリングの玉みたいに転がって、ボロボロになった。起き上がろうとする奴の胸板に足を乗せて釘をさす。


「あの子は俺が虎視眈々と狙ってる子なんだよ。お前みたいな部外者が手を出すな」
「手、なんかだしてぐえっ!」
「彼女の視界に入るのも目障りなんだよ……消えてくれない?」


 足を退けると脱兎みたいに逃げる情けない後ろ姿に吐き気がする。あんな生きていても意味がない存在が田村さんを汚すなんて言語道断。頼むから、死んでくれ。
 あんな男より田村さんだ。振り返って田村さんに近寄ると、田村さんが心配そうに見上げてくる。俺を、心配してくれたのかな。それともあの男? そこの女の子? 俺以外は悲しいけれど、田村さんだからなぁ。ああ、やっぱり田村さんは優しい。世界で一番、素晴らしい人だ。


「田村さん大丈夫? 怪我してない?」
「いや……それはアンタでしょ! 危ないからもう」
「田村さんも危ないことしたじゃない」
「う」
「田村さんは田村さんがしたいように、誰かを守ってもいいんだ。俺は田村さんしか守りたくないから、田村さんだけを守る。そうしたら、皆、危険じゃないよ!」


 ほんとは、俺だけに優しくしてほしいけど、それは我慢。
 だって、呆れる程優しすぎる田村さんが大好きなんだから。
 田村さんが無事そうで、安心した俺や田村さんに、恐る恐る二人組の女の子がそっと声をかけてきた。


「あ、ありがとうございます……」
「いや、私は何もしてないし……平城が全部片付けたからね……」
「全く! 田村さんを傷つけるなんて死ねばいいのにね!
「お前、それは言い過ぎ……」
「あの、お二人は付き合ってるんですか!?」


 片方の女の子が、頬を紅潮させて声をあげる。もう片方の子は彼女を止めようとしたけれど、訊ねてきた子はそれに気がつかないようだ。


「……まだ、違うけど」


 田村さんが俺と付き合うのは、絶対的な未来だ。俺にそれ以外の未来を想像できない以上にあり得ないから。だから、まだだと言った。


「本当ですか!?」
「ちょ……ユア。付き合ってなくても、確実に間に入ったらいけないでしょ。すみません。この子、失恋したばかりで」
「い、言わないでよ! だって、かっこよくて強い男なんてなかなかいないよ! しかも細マッチョとみた!」
「アンタは能筋だからへんな男にしか引っ掛からないのよ」


 目の前で言い争いをし始める女の子に、どう対処したらいいのか分からずオロオロしていたら、田村さんが二人の間に入ってきた。


「おねーさん達。せっかく遊園地に来たのにケンカなんてダメだよ。おねーさん達は可愛いんだ。笑顔の方がよく似合うよ」
「君、メルアド教えて?」
「見境なしか! すみません本当!! 行くわよ!」
「あああ!! せっかくの出会いがぁ!!」


 ズルズルと引きずられていく女の子。……何が、起こったのか分からなかった。
 田村さんを逆ナンしそうになった時は、ちょっと脅そうかとしたけど……さっさと行っちゃったしね。

 大きく呼吸をし、切り替えてデートを満喫しようと田村さんに顔を向けようとしたら、パーカーに違和感がした。
 細い指が、申し訳ない程度に摘ままれてる。身長差で、至近距離だから……田村さんは故意でなくても上目遣いになるわけで。


「……助けてくれて、ありがと」


 卑怯過ぎる。
 俺は今日、田村さんに男としてみて欲しくて、恋愛対象になりたくてここに来たのに。
 俺がますます田村さんを好きになるなんて不公平だ。


「……田村さんは、本当にもう……!」


 俺だけって悔しさに片手で顔を隠して、視線をそらす。ずるいんだ。君は本当に、ずるい人だ。


「嬉しかったんだよ。こんななりでもさ……ちょっとは女心があるからね」


 知ってる。
 田村さんは確かに、ちょっと勇ましいよ。だけど、誰よりも繊細で優しくて……。
 俺にとって、世界で一番愛しくて可愛い人。


「今なら、舞い上がってるから観覧車乗れそうだ。行くか?」

 優しい田村さんの声色に、頷くしかできない。

 何時か、君も俺と同じになればいいのに……そう思うんだ。


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