夜美というバケモノは、世界にたった一人しかいない。そして、彼女の才能は彼女だけしか持ち得ない素晴らしいものだ。是非、俺の組織で生かしてくれたらと彼女をスカウトした。
そんな特別な彼女が特別視した人間が三人いた。
一人目は、彼女の弟で、その愛は迷惑がられていた。
二人目は、彼女の同窓生で、彼女に魅入られているにも関わらず、互いに壁を作りあっていた。
三人目は、彼女の親友と呼ばれる少女で、彼女が壁を作るにも関わらず、それが夢だと思われるほどに彼女に語りかける。そして、その少女は……。
「クロウさん!!」
何故か、俺に凄いなついた。
何時ものように、賑やかな公園で一人、絵を描いている茶色の髪をした少女が、いきなり目が痛いほど灯りがついた電球みたいな笑みを浮かべて、俺に全力でかけてきて体当たりをする。何とかこけないように彼女を抑える。
「クロウさんだ! おかしやさんもびっくりのクロウさんだよ!!」
「……えっと、駄菓子屋のことを言ってるのかな?」
「うん! あのね、この間の遠足でお菓子かってね! もうほっぺがとろとろーってくらいおいしかったんだよ! あっ、クロウさんのぶんおいといたら良かった……」
「大丈夫だよ。飛鳥が全部食べてお菓子も喜んでるんじゃないかな」
「私はクロウさんと一緒に食べたいの!」
素直というか、ここまで汚れてない相手と相手をするのは初めてだから調子が狂う。
夜美なら、何かしら反抗してきたら罪悪感をつつく。それだけで落ち着く。セシリオみたいなタイプなら、上手いこと夜美(エサ)を使い、誘導すればいい。ボスなら正義に繋げたら簡単に動くし、空は金を積めばいい。
だけど、飛鳥ちゃんの場合はどうしたら思い通りに動くか……全く想像できない。いや、一つだけあるといえばあるんだけど。
「ねぇねぇ、クロウさん。私、クロウさんと恋人になりたい!」
小学生に成り立てのくせに、もうませてる。いや、彼女に関わる人種が俺とか夜美とか年上だからだろう。
「……飛鳥ちゃん。俺は十六だよ。十も年が離れてるんだ」
「うん」
「……俺と、飛鳥ちゃんがお付き合いするのは、できないんだよ。俺が警察に捕まっちゃう。俺は筋違いなことをしちゃわなきゃいけないんだ。わかってくれるよね?」
彼女はとにかく、彼女の中のルールに忠実だ。例えば、親友な家族は全力で大切にするもの。恋人は全力で愛するもの。やるからには全力で。彼女が譲らないルール。
だけど。
「じゃあ、飛鳥、将来警察の偉い人になるね! それならクロウさんと結婚できるよ」
彼女はそのルールさえ打破しにかかる。もし、俺が女なら政治家にでもなって法律を改正させようとするかもしれない。
とんでもない発言だけど、……飛鳥ならやりかねないなんて、嫌な予感が浮かぶんだ。
「……それに、俺は君をそういう風には見れない」
「それは私がクロウさんに何もしてないもん! だから頑張ってクロウさんのハートをゲットするの!」
「……だからね」
「……迷惑、かなぁ?」
そしてこれだ。この子は案外賢いのではないかと思う。
あんな捨てられた子犬みたいな目で、見上げられて無下に追い払うやつはなかなかに非情だと思う。俺も非情な部類だが、ここではねのけるタイプとは違う。
そんなこと言われて迷惑と言えるほど、小さいこどもを傷付ける程には腐ってなかったということか。
「……いや、迷惑と言うわけじゃ……」
ああくそ、なんでこんな歯切れが悪くなるのか。調子が狂うのか。
それは、君が俺の手に余りすぎるから。
「……へへへ! 嫌われてなくて嬉しいな!」
君が、きっと俺の特別でもあるからだろう。
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