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しばらくして、コンコン、とノックの音がした。夜美さんだろうと思って扉を開けると、やっぱり夜美さんがやり切った顔で俺を見つめていた。
「ご主人様!言われた通りにしてきたよ!」
「本当?ありがとう。夜美さんは本当に頼り甲斐があるね」
そう言いながら、俺は俺より背の低い夜美さんの頭を撫でた。頼られるのも、褒められるのも慣れてない彼女は、こうすると喜んでくれるのだ。
案の定、にへらっと顔の筋肉を緩ませて、ほわほわとした空気を出す。
「えへ。えへへへ……」
「祐樹はどうだった?」
重要なのはそこだ。
夜美さんに(物理的に)背中を押され、薄着の桃と密着することになったであろう祐樹は、どうしたのか。直接見たかったけど、「お前のせいか!」といちゃもんつけられるのも嫌だしね。
「あっ、大丈夫!」
返ってきた言葉に、首を傾げる。“大丈夫”?
動揺しなかったってこと?あの祐樹が?そんなはずはないでしょう、と思っていると、夜美さんはにっこりと微笑みながら、親指をピシッと立てたのだった。
「結構音はしたけど、急所は外したから!大丈夫!」
「……あぁ、そういうこと?」
吹いた。
どうやら、俺の命じたことの真意を理解していなかったらしい。本当に、夜美さんは素晴らしいな。いろんな意味で。
まぁ、そんなことなら、さすがの桃も心配しただろうし、まさに怪我の功名?
「……?ご主人様、私、何か間違えてた?」
「そんなことないよ、ありがとう」
そう言ってもう一度夜美さんの頭を撫でると、夜美さんはまたはにかんだ笑みを浮かべたのだった。
───俺を慕っているこの忠犬のような女の子は、取扱注意の猛犬でもあるみたいだ。
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