マンション化計画 | ナノ


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唯が二階に移動した為、静かになったキッチン。夜美が脚を踏み入れると、そこには見覚えのある人影があった。


「オ……トウマ。何してるの?」


トウマは夜美の姿を横目でだけ確認すると、クスリと笑った。


「見ての通り、アルベルト坊ちゃんのためのケーキの用意ですが」


確かにそこには、色とりどりのケーキが並べられている。美味しそう……と思ったところで、またトウマから人を小馬鹿にしたような声がした。


「夜美お嬢様こそ何をしてるんですか?今、二階であなたの得意分野の戦闘真っ最中じゃないですか」


得意分野とか、失礼だ。
ムッとして、思わずトウマを睨みつけた。


「隠れてたの。ふーらいさんから、夜美は手加減しないと死人が出るから、無駄な戦闘は控えなさいって言われたから」
「ふぅん……また風来さん、ですか」


風来、という言葉を聞いて、仮面が張り付いていたようだった笑みが、少しだけ崩れた。夜美は、その様子を見て不思議そうに首を傾げる。でも、考えてもわからないから、考えるのをやめた。
そういえば、今真っ最中の戦闘の原因って……。


「そういえば、あんたは誰かに渡したの?チョコ。このマンションの関係者はみんな渡さなきゃいけないって、唯が───もごっ!」


話の途中で、トウマに何かを口に突っ込まれる。反射的に吐き出そうとしたが、何これ……甘い?
そのまま流れで咀嚼して飲み込んでしまう。甘い。これは。

───チョコレートケーキ……?


「感謝してよね」


そのまま、ふいっと顔を背けてしまうトウマ───否、オズ。
夜美は、オズのその行動の意味にやっと気づいて、顔を真っ赤にしてキッチンを飛び出したのだった。







甘くて苦い、チョコレート。
人によっては甘かったり苦かったりするバレンタインが、もうすぐ終わろうとしていた。






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