マンション化計画 | ナノ


策略とは。


「山月くん、手伝うわ」
「お、高坂、ありがとう…って畳めるのか」


小虎が一人洗濯物を畳んでいると、千百合がやってきて一緒に洗濯物を畳み始めた。


「……山月くんの家にお邪魔したときに、スズくんに教えてもらったもの」


夏休みに、小虎の家に飛び込んできた千百合は、スズに教えてもらい洗濯を習得していた。小虎はそれを思い出しながら「ああ、そうだったな。あの時、洗濯機に大量の洗剤入れて…」と苦笑する。


「む…それは言わないで」


千百合は黙々と手を動かしながら、小虎の発言を遮る。自分の常識の無さを思い出し恥ずかしかったらしい。ムッとした彼女に小虎は「悪かったよ」と謝る。二人で他愛もない話をしていると、洗濯物はあっという間に片付いた。


小虎は千百合に「おやつにするか」と言って、千百合の湯呑と自分の湯呑にお茶をそそいだ。二人は仲良くこたつに足を入れお茶を飲む。ま


「…洗濯とか…言ってくれれば、いつでも手伝うのに」
「これも俺の仕事だからさ、それにみんな自分のことは自分でやるからそれほど苦でもないし」


千百合の意図は「手伝うことによって一緒にいる時間を増やしたい」と暗に言っていたが、小虎はまったく気づかない。どころか口で「大変じゃない」と言いながら心の中では「……高坂が手伝うことによって仕事が増えるのは阻止したい」と思っていた。
千百合は顔には出さず内心残念がりながら「そう……そういえば、この間執事さんが面白い遊びをしていたのだけど」と話を変えた。


「……執事さんってトウマさんかよ……嫌な予感しかしねーよ」


トウマ――鷹野唯の先生の執事で、厄介事や揉め事、起爆になりそうなことを落としていく人物である。小虎はスズで手一杯なのに、これ以上面倒事を増やされても困る。だが、千百合はいつもの調子で「トウマから教わった遊び」を実行する。


「山月くん、ピザって十回言って」
「肘さしてこれは?って言う遊びかよ」
「……なんで言っちゃうの。つまんない」
「トウマさんが教えた遊びなんてやりたくねーよ…」


小虎は呆れるが、千百合は黙ってじっと彼の顔を見つめる。
その眼には負けないと小虎は目を逸らすが、千百合は顔を覗きこみ意地でも目を合わせてくる。


「山月くーん…あーそーぼ…」
「怖い!怖いから高坂!!わかったやればいいんだろ!」


髪の長い千百合が顔を斜めにしながら迫ってくるなんて、ホラー物である。結果、根負けした小虎は彼女に付き合う。


「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ……」
「ここは?」


案の定、肘を出した千百合に「肘だろ」と冷たく答える。だが、これで終わりではなかった。


「…魚のキスって10回言って」


なんだそれ……と思いながら小虎は「キスキスキスキスキスキスキスキスキスキス……」とちゃんと10回言う。


「キスの反対は?」
「好き」


反射的に答えた小虎は、はっと気づき「な、なに言わせてんだよ!!」と顔を赤らめた。


「……私も好き」
「いや、高坂に好きって言ったわけじゃ…ってかそれ言わせるためか!!!」


やっと遊びの趣旨に気づいて「くだらねえことすんな!」と照れ隠しから怒鳴る。


「執事さんがこうすれば好きって言ってくれるって。…計画通り」
「くそ、はかったな!ていうかトウマさんも高坂に変なこと教えて…!」
「……もう一回したいわ、山月くん」
「しない!絶対するか!!」


嫌がる小虎に、無表情だが心なしか嬉しそうな千百合が「もう一回」と迫る。








――その後ろに、ペットボトルを握り潰しながら「リアジュウシネ・・・」と言う唯が、居るとは知らず――




「――『計画通り』っていうのは、こういうことを言うんですよ……千百合お嬢様」






……また唯と一緒に帰ってきたニコニコ笑う執事が、そう呟いていたとは、誰も知らない。





END



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