屋根裏の少女3
再度屋根裏の階段を上がりながら、アルベルトが直人に「なんか重ねてんのか」と聞いた。
「まぁ…思うことはあるよ」
「昔、お前にしたみたいにイタリアまで連れ出せば治るかもしれねーな?」
「あの子は、ダメだって!!? 繊細そうだし……人嫌いなんだし…」
直人は大学受験のため勉強漬けで疲れ、引きこもったことがあり、アルベルトから無理矢理外に連れ出されてすべてどうでも良くなって、今は専門学校に通っている。なんとなく重なるのだろうか……放っておけない、という想いを抱いていた。
「ハムスターの妖精だしな、無理矢理連れ出されてストレスで死なせたら俺が死ぬ」
「だ か ら ! お前の頭はどうなってるんだよ!!? ハムスターの妖精ってなんだ!!? あの子はどう見ても人間……」
スッ……
「……うるさい!!!!」
バンッ
「「!!?」」
直人とアルベルトは驚いて顔を見合わせた。二人はいつの間にか階段を上がりきっていた。すぐそばに屋根裏部屋があり、そこで騒いでいたが障子がスッと開き、毛布を被った新見が一喝し、力をこめて扉を閉じた。
その姿を見たアルベルトはテンション高く直人に「ほら、見ろ!!? あの怯える姿、小動物そのものだ!!ハムスターっぽい!」と訴える。
――すると、また障子が開き、小さく顔を出した新見が怒鳴った。
「誰がハムスターだ!!?安易にちびって言いたいのかボケェ!!?なんなんだお前ら!二度と来るなって言っただろ!」
バンッ
酷い拒絶に直人は驚き、怒りが面に出たが、「あたしの方が大人……!」と言い聞かせぐっと堪え、息を吸って頭を下げた。
「新、勝手に上がりこんでごめん! もう来ないから! 許してなんて言わないけど、とりあえず謝りに来ただけだから……ごめん」
「あー……うん、悪かったな。直人のせいだけど」
――障子一枚を隔て二人の謝罪を聞いた新見はひゅっと息を飲んだ。泣きそうになりながら、意味が分からないと首を振る。こんなに拒絶を示しているのに、放って置いて欲しいのに――感情が溢れ出そうになるのを抑え、さらに拒絶を示そうとするが――
「うるさいな! なんかないのかよ、お菓子魔神!」
「あるぞ。チョコレートと飴とガムと駄菓子と……」
新見はアルベルトがひょいひょいポケットからお菓子を出すのを見て、たまらず「チョコだと!!?」と反応していた。
新見は障子紙に穴を開けて、アルベルトの手いっぱいにあるお菓子をキラキラした目で見ていた。
その新見の様子に直人の胸は、キュン、と射抜かれていた。
「あ、アル!新にお菓子あげろ!」
「あ…いらない!な、なんでもない!!」
「欲しいならやる」
「い、いい!!別に欲しくなんて……!!」
新見は慌てて部屋に引っ込むが、アルベルトは障子に穴を開け、ひょいっとチョコレートを投げ込むと「なげるなあああああああ!!」と怒鳴り全力で走る音が聞こえた。
そして包み紙を剥がす音が聞こえ……スッと毛布を被っていながらその下からでも分かるほど顔を真っ赤にした新見が出てきて一言。
「つい食べたけど……つられたわけじゃないからなっ!? ここにはもうくるな!! いいな!!?」
……そう言って三度扉を閉めた。
しばらく呆然としていた直人だったが……アルベルトを見上げる。
「……なあ」
「言うな、分かってる」
幼馴染みの二人は今考えていることは同じだと感覚的に感じ取っていた。
――新、めっちゃ可愛い。
――新、マジハムスター。
「……アル、今から帰ってお菓子作ろうそうしよう」
「そうだな。チョコレート買い込むぞ」
――新を餌づけするために。
こうして――屋根裏の少女、新見新の存在を知った直人とアルベルトは、なんとか会話をするレベルまで仲良くなろうと――餌づけ作戦を始めたのだった――。
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