屋根裏の少女2
「――あの屋根裏にいる俺の学園の先輩、新見新先輩は、人間嫌いなんです」
マンション住民と遊んでいたかくれんぼは、屋根裏の少女――新見新の叫び声によって中止になった。小虎は屋根裏に近づいた直人とアルベルトに事情を説明し、「知らなかったとはいえ、先輩の様子に驚いたと思いますが……先輩に対して怒らないで欲しいんです」と二人に言った。
「怒るのも何も……あの子は悪くないよ」
「きっと……人になつかない新種のハムスターだしな」
アルベルトがキリッとして言うものだから、直人と小虎はズルッと滑るように、身体を傾ける。
「んなわけあるか!お前、今の説明聞いてた!?小虎がめちゃくちゃ丁寧に説明してくれたじゃん!あの子は人間だから!!」
「人間だろうが…小動物染みて可愛かったなぁ……」
「あたしの話聞け!!」
小虎は、アルベルトのアホ!! と頭を叩く直人を見て苦笑する。
「あはは……とにかく……新見先輩はあまり人と関わりたくない人なので屋根裏には近づかないようにお願いしたいんです」
小虎は、身内とも距離を置く新見が直人やアルベルトに関われるとは思えなかった。小虎ですら、世話はするが機嫌が悪い時は「出てけ!」と言われる始末――彼はそんな新見を心配するも、徒労に終わっていた。
小虎は新見を上手く「善意が受け入れられない人」だと最近気が付いた。善意を受け入れるのを怖がっているように見える――それが人嫌いの原因のようで……それは触れてはいけない「トラウマ」があるのだろう、とお節介な彼は思案する。どうにもできないなら、せめて屋根裏に安寧を、と二人を遠ざけようとした。
だが、小虎の言葉を受けた直人は真面目な顔で「……あたし、謝ってきてもいいかな、あの子に」と言い出した。
「え、いや」
「勝手に入って行ったのはあたしとアルだし、怖がらせたでしょ? 謝ってくるよ」
「でも新見先輩は……!」
「姿を見せなきゃ良いだろ」
そう勝手に決めて直人はアルと連れ立った。小虎は慌てて止めようとしたが、ふと思い止まる。
「ひょっとしたら――荒療治なら新見先輩も……」
小虎が新見と出会ったのも、偶然で、新見から「無害認定」を受けたからだった。一度怒鳴られてもまったく意に介さなかった直人とアルベルトなら――新見と交流をもってくれるかもしれない。
「……ううん、一応「なんでまた余計なことを……!!?」って怒鳴られる前にチョコレート買ってこよ……夕飯の買い物行かなきゃいけねぇし」
きっと直人とアルベルトは止めても新見の元に行くと確信した小虎は完全に新見のことは諦め――今日は中華にしよう、とエコバッグと財布を取った。
直人とアルベルトと小虎の会話一部始終を聞いていた沙弥と唯が――小虎お前思春期の子どもの機嫌を取るオカンかよ、そんで主婦かよ、と心の中で突っ込んだことは誰も知らない。
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