野生の勘と都会順応少女
「巨乳で、料理が上手くて、家庭的・・・・・・か。私の知り合いにいるけど」
「まじ!?」
「ただ、レズだわ」
「きもちわるっ・・・・・・」
「・・・・・・」
マンションのリビングに降りて、スポーツドリンクでも飲もうとしたら、媛路に話しかけられた。と言っても、最初は食べ物の場所がわからないらしいから、冷蔵庫にあるものの場所を大まかに説明しただけなんだけど。そしたら、媛路が将来、スズみたいに料理が上手くて、小虎ほど家庭的であと巨乳の人と結婚したいとかいいだしたことから冒頭に戻る。
・・・・・・ここまでハイスペックなんだから、レズくらい目をつぶってやれと言いたかったけど、こいつはきっと聞かないタイプだろうから口を閉じる。媛路は冷蔵庫からアイスクリームを取り出して口にほうばりながら、何か思い出したように私に訊ねた。
「そーえば、なんれたむらはひらひろほふひはは、」
「媛路、悪い。何言ってるかわかんねぇ」
「だーかーら。なんで田村は平城好きなのに付き合わねーの?」
この質問は、まずい。かわさないと。
私は何気なくスポーツドリンクを取り出して、二つのコップに淹れながら答える。
「んー。なんでだろうね」
「誤魔化すなよ。だって、お前男みたいだけど、平城みるときはちょっと女っぽ」
「ほい、飲むか?」
「ありがと」
スポーツドリンクを取った媛路に、私はスポーツドリンクを一口だけ飲んで、美味しいな。これって自分でも作れるんだろうかと口にした。
小虎に単純だとか、スズにバカとか言われているけれど、やっぱりここまであからさまなあ誤魔化しは通用しないみたい。
「なぁ、何で誤魔化すんだよ」
「・・・・・・媛路。その正直さはすげーいいと思うぜ」
「おい。聞いてんの?」
「・・・・・・わかった。悪かった。だけど、ちょっと胸糞悪い話になるぞ。いいのか?」
「もう胸糞悪い!」
「・・・・・・はは、だな。わりい」
何でこうなったのか。キッチンには私と媛路以外居ないからまだいいとしよう。
そして、スポーツドリンクの面に映った情けない自分をみながら、自分の身の上の話をし始める。
「結構、私はいろいろ首をつっこんでね。人脈のせいで親友を知らずに殺してしまったも当然のことをした。そんな私が、大切な人を作って守れるわけがない。なら、作らない。それだけのことだよ」
「・・・・・・おかしいだろ、それ」
「世の中、妥協しなきゃいけない。お前はそれを」
「そうじゃなくて! 守られるのって、平城じゃなくて、田村じゃね?」
へ?
顔を上げたら、媛路が本当に不思議そうに首を傾げていた。本気で言ってることはすぐにわかる。だけど、自分が守られる存在だなんて、考えたこともなかった。
媛路は、目を丸めている私に、ますます疑問に思っているようだ。
「だって、平城一回も守ってほしいとか言ってねーじゃん。むしろ、心配してるし。田村は周りが見えてないんだな!」
「え、ええ?」
初めて言われた言葉に、戸惑いを隠せない。
どちらかというと反対のことしか言われたことがなかった。なんだろう。媛路には何が見えているんだろうな。
気になるよ。
「媛路、あの」
「ああー!!」
「ど、どうした!?」
「アイス溶けた・・・・・・手ぇべとべとー」
はたと下にはぽたぽたとバニラアイスがこぼれていた。やばい私が長話をしていたから、こんなことになったんだ。台所の手をふくタオルと雑巾を棚からとりだして、タオルを少し濡らしてから媛路の手をタオルで包んで拭いていく。
「アイス・・・・・・」
「あとでおごってやるから」
「やった!」
「床もびちょび」
「ショウくん、田村さん、何してるのー?」
何時もの口調なのに、なんだろうか。この状況とか、あって振り向いたらいけない気がする。でも、媛路は平城どしたー? とへらへらしていた。
ゆっくり、こっちに距離を縮める平城に、心臓が嫌な意味でどくどく鳴り響く。
私の真後ろで立ち止まった平城の息が、耳にはいる。
「・・・・・・ああ。アイス落としちゃったんだ。田村さんも、ショウもせっかちだね」
私の背中にのしかかり、媛路の手にくるまったタオルに私の手を払いのけた平城の顔が見えた。こちらに顔を向けて、くすりと笑っている。
「アイス、俺も買いに行くよ。お詫びにたくさん買ってくる。どうせ、鷹野さんに見つかったらとられかねないし」
「いっぱい!」
「でも、選ぶのに時間かかるから帰るの遅くなるかもね。じゃあ、行こうか」
「いやあああああああ!! 媛路! 助けて!」
「アイス楽しみにしてるからな!」
「俺の告白むしして他の男といちゃつくとか許さない。それともまだ好きって伝えきれてないのかなじゃあたくさん好きって教えてあげるよ・・・・・・」
「ぎゃあああああああああああ!! 小虎ぁあああああああ!!」
のちほど、しばらく私は千百合ちゃんの部屋に泊めてもらった。
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