トウマと私とオズベルト
「へへっ・・・・・・真也は喜ばないかもしれないけど、沙弥ちゃんとか新ちゃんとか、直ちゃんとか、珠華ちゃんとか、千百合ちゃんとか可愛い子は甘いもの好きだよね・・・・・・大丈夫。献上くらいしても嫌われないはず・・・・・・ああ、でも、毒はいってるって思われないかな」
ちょっと前の話。
家から出て行ってマンションに住み始めた真也。私みたいな家に居にくい原因が止めることができない。だからといって、普通のひとり暮らしじゃなくて、マンションで共同生活をし始めた。同じ部屋が沙弥ちゃんと早乙女なのはいい、だけど、管理人があの胡散臭い犬神ってなんだ。何で唯(腹黒魔王)に市ノ瀬(最強変態)が居るんだ。まだ妖怪の珠華ちゃんとか玖鈴の存在がまともに見えてしまう。だからって他の住民がまともというわけでない。千百合ちゃんや山月はまだしも、あの成原ってのは危ない。
タッパーにたくさん詰まったアップルパイを見下ろしながら、思わずため息をついてしまった。確実に何かは起こりうるマンション。やっぱり、余計なお世話とは思うんだけど、真也を守らなくちゃいけない。
そんなことを考えていたら、手が伸びてきた。その手は私がもっていたタッパーを奪い、地面に叩きつける。地面にふたが空いたタッパーの中にあるアップルパイがいくつか地面にべちょっと引っ付いた。
「いけませんね、夜美お嬢様。そんな化物が作ったモノを、人間様が食べれるわけないじゃないですか」
威嚇した猫みたいに毛を逆立った感じがした。すぐさま顔を上にあげて、そいつを睨みつける。だけど、予想とは違う男だった。
茶髪に、口元にほくろがある執事だった。にこにこしていて、こんな優しそうな外見の人がまさかこんなお菓子を本人の前でおじゃんにする人ではないと顔を覗き込もうとしたら、その男がまたにっこり笑う。
「・・・・・・言っている言葉すら、わからなくなりましたか?」
いや、間違いなく目の前の男みたいだ。よくわからない気持ち悪さもイライラの原動力になっていった。こんな人間いなくなっても大丈夫だよな? 突然見知らぬにんげ、・・・・・・生物の所有物を奪った挙句、それを台無しにしやがったもんな。いいよね? 殺していいよね?
懐のナイフをつかもうとしたら、男がにやりと笑った。さっきまで浮かべていたより邪悪で、悪質。だけど、私はその笑みを知っていた。
「・・・・・・オズ、か?」
「・・・・・・ははっ! 化物だから気づいたの? だいせーかいだよ。化物の勘ってこわいなぁ」
オズ、本当の名前はオズベルトだけどもう長いからオズって呼んでる。
私とオズはちょっとした知り合いだった。だけど、確か、あいつはもう死んでいるはずだ。なのに、何で目の前にいるんだ。
「おい、トウマ何して・・・・・・夜美か」
「あ、アルベルト!」
「アル坊ちゃんですか。もう戻られますか?」
「・・・・・・ああ、あと、お前これ」
「戻るって、何を企んでいる気だおずべ、」
トウマという男が、私の顔に顔を急接近させた。
そして、唇に、唇が重なっている。
すぐに離して、にやにやと笑うオズベルトが唇に人差し指を添えながら、呟く。
「その名前は、二人っきりの時に呼んでください」
その台詞で石のように固まった私。
そんな私達の様子を幸運か、アルベルトは見ていなかった。ただじっと地面に、いや、無残にゴミと化したアップルパイに視線を落としていた。
「これ、誰がやった?」
「こいつです」
「あはは、だってアル坊ちゃん。この化物が作ったお菓子ですよ? 毒じゃなくても致死量の塩とかいれられてもおかしくな」
「トウマ。安心しろ。今すぐアップルパイと同じ世界へ送ってやる」
目がマジなアルベルトが拳銃を構えてオズに迫るも、オズがまずいと気づいたのか、そのままダッシュで逃げ出した。そのあとを発砲しながら追いかけるアルベルトの背を見届けた私がいった言葉が。
「愛してる! とか?」
「・・・・・・ちがう」
最近引っ越してきた桃という女の子にオズベルト、というかトウマとの馴れ初め? (私はそくわかんないけど、はじめの話らしい)を訊ねられて、それに答えていた。ご主人様(戌井)のご希望だし。あ、ご主人様ってのはそう呼んで欲しいかららしくて、私みたいな化物の力を貸して欲しいっていってくれた人なんだ。頼られるのは、本当にうれしい。
桃ちゃんも、私を怖がらず、それどころか積極的に話しかけてくれる。本当にいい人間だ。まぁ、さっきからさ、猿? がこっちを睨んでるけどさ。あいつは私が嫌いなのかな?
「じゃあ、じゃあ何て言ったの?」
「・・・・・・キャラが真逆すぎて気持ち悪い、だったかな」
「え? トウマさんってキャラ違っていたんだ! どんな感じだったの?」
「ここからは、有料だよ」
「え?」
「内緒」
あいつが言っていたことを真似してみる。ここから先は、一般人にはちょっと過激だよ。
だって、私はアイツを、私の手で殺したいと思っているんだから。
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