マンション化計画 | ナノ


屋根裏に住む少女

** 【マンション計画】屋根裏に住む少女
 ――アルベルトと広瀬直人(ひろせなおと)がその「少女」と出会ったのは、「櫂木荘」の濃いメンバーとかくれんぼをしていた時だった。


鬼は幼馴染の直人で、やる気のなかったアルベルトはさっそく見つかり直人と一緒に他のメンバーを探していた。


「いねーな」
「まあ、面子が面子だし……日が暮れる前まで探せるかなー」
「気配で分かるからなんとかなるだろ」
「それお前だけな」


 いっそこのまま放棄するかなーと直人が溜息をついて壁に手をついたとき――


「うぁわああぁぁ!!?」


ガコンッと壁が外れ、直人はこけた。


「なにやってんだよ」
「知らないし!!あーー!!いったい……」


 尻餅をついた直人はアルベルトに手をかしてもらい、立ち上がる。アルベルトはきょろきょろと突然開いた壁の裏側を観察するように見る。


「あー、隠し部屋か?」
「なんだってこんなところに…!」


 壁の裏側はうす暗く、大人一人が登れるくらいの階段があった。


「おお…トト□のまっく●くろすけが居た部屋みたい」
「実際居たりしてな」
「居てもおかしくないよ……ここ、なんでもありだし」
「管理人が獣耳生えてるしな…触りたい」
「怒られるって」

アルベルトはどう見ても少女にしか見えないこのマンションの管理人・中原歩美を思い出す。プライドと動物愛がせめぎ合って、未だ果たせていないが……彼は歩美に生えている獣耳をいつか触りたいと思っていた。もふもふ……と妄想としていると、直人が隠し部屋に一歩踏み入れた。

「ここに誰か隠れてそう……行くぞ、アル」
「あー、マジでか」


 アルベルトは面倒だと思いつつ、早くかくれんぼを終わらせたい直人についていく。階段は短くすぐ、細長い廊下に行き当たった。

 間取りからして屋根裏のようだ。数歩先には襖があり、直人は、物置か? と首を捻る。一方アルベルトは「なんか…変だな」と屋根裏を観察するように見る。


「何が?」
「ここ、妙に綺麗だろ?使われてないなら、もっと埃っぽいはずなんだが……」


 アルベルトは腰を曲げて、人差し指で床をなぞる。多少埃が指についたが、掃除されていない程度ではない。


「誰か住んでるってこと?」
「かもな……妖怪か?座敷童とか?」
「むしろ動物とか」
「ハムスターか!!!」


 動物に反応してカッと目を見開いたアルベルトに対し直人は慌てて「冗談だって!住んでるわけない!」と否定する。ハムスターというより、ネズミが住んでいる雰囲気だ。


 その時――襖の奥からガタッと音がし、直人は驚き思わずアルベルトの服をつかんだ。


「だだだ……!?」
「あー…住んでるやつ居たみたいだな」





 『誰だ……? 山月か?』




 襖奥から聞こえて来たのは堅い口調のわりに幼い声音。アルベルトは変な誤解を生むより、いっそ名乗った方が良いと襖に手をかける。直人はそれはまずいんじゃ…と、アルベルトの服を引っ張って「アル!」と止めようとするが制止も虚しくアルベルトは襖を開けてしまう。


 「誰か住んでるのか?」
「あ……いぎゃあああああああああああ!!!?」



 開いた瞬間、耳をつんざくような悲鳴が轟いた。二人が思わず耳を塞ぐほどの絶叫。


「なんでっ、なんだ!?なんでええええいぎゃああああああああああ!!!」


 アルベルトは顔をしかめながら部屋の主を視界の端にとらえた。小さな顔に似合わない大きな眼鏡をかけた少女。今にも泣きそうになりながら、小さな自分の身体を折れそうな腕で抱いていた。必死に近くにある毛布を手繰り寄せ被る。


「どどどどっ、どっかいけ! ワタシは人嫌いなんだ!!!一歩近寄ったら死ぬ!…ぐすっ…ああああああああもうやだあああああああ!!!」


 身体を震わせつつ毛布の隙間から二人を睨み付ける少女。アルベルトはそれを見てゾワッと肌を粟立てさせ、無表情の顔を明るくさせた。歓喜するように直人に言う。


「直人、あれ、ハムスターだろ!!妖精的な!!!」
「えええええ!!?いや、人間の女の子でしょ!!!明らかにあたしたちのこと怖がってるし!?」
「どうやったら捕獲出来る……?」
「いや、あの子泣いてるし!捕獲ってどういうこと!?」
「泣き止ませれば良いのか?」
「そういう問題じゃないって!」


 直人は、お前アホか!!! とアルベルトに頭突きする。


「な、なんなんだ……お前ら……っ早くでてけ!!」


 それを見ていた少女は怖がりつつ、拒絶の言葉を投げつける。直人は頬をかきながら「あ、えっと…かくれんぼしてて…」と事情を説明しようとする。


「あああどうでもいい!お願いだから……ううっ……はきそ……」


 だが、遮られてしまい意思疏通もままならない。しかも吐きそうなんて物騒なことを言われてしまった。


「えっ!?大丈夫!?」
「お前らが出てけば治るからああああああ――!うあああああん!!!もうやだしぬううううううう!!!」


 わけがわからず顔を合わせる二人の頭に過ったのは「手負いの野性動物のようだ」という考えだった。


「新見先輩!どうしたんです――って、アルベルトさんと広瀬さん!?」


 泣き叫ぶ少女を慰めれば良いのか、このまま立ち去れば良いのか――アルベルトと直人が途方に暮れていた時、住み込みで住んでいる山月小虎が騒ぎを聞き付けて屋根裏にやってきた。


「よっ」
「あ…山月みっけ」


 どうしたらいいか分からない二人はとりあえず彼に挨拶をし――「そんなこと言ってる場合ですか!」となぜか怒られた。



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