マンション化計画 | ナノ


こんなのも悪くない

「お願いだからいい加減片づけしてくれ…」

段ボールが山積みになっている部屋の中、朝燈が今にも泣きそうな表情を浮かべこちらにそうに訴えている。周りを見れば笑顔でふざけている観月祐輔、そしてその彼を遠慮なしと締め上げてる江澤千秋。部屋の隅で胡坐をかきスマホをつついている橋本流雨。そして壁にもたれながら体育座りをし、ぼーっとしている僕、篠原湊。

どういう理由でここにいるのかは忘れたけど、僕たち5人はこの櫂木荘に住むことになった。そのため各自必要なものを持ってきて、この部屋に運んだんだけど…。
観月祐輔がふざけたり、江澤千秋が「女の子がいない」とか言ったり、橋本流雨は部屋に入るや否や隅っこに座り我関せずと、朝燈以外誰も段ボールに触れることはなかった。

「湊、お前も暇なら片づけ手伝えよ…」
「…眠い」
「おいこら」

朝燈と僕は同い年で、このメンバーの中では1番年下。朝燈はいつも勢いで叫んだりする。でも年上の人にはなかなかできないみたい。
流石に人のものをふれるわけにいかないので朝燈は諦めて自分の私物を片づけにいった。

ほとんどの人はぼーっと時を過ごすよりも、何かしている方が好きだというけど、僕は何もしないでボーっとしている方が好き。
できることなら静かな場所でボーっとして、自然と寝たい。でも最年長2人組がうるさくて眠れない。ので、目をつむって落ちるのを静かにまつ。



あれから何分たったのか。ふと頭に痛みが走り瞼を開ける。
目の前には眉間に少ししわが寄ってる朝燈。どうやら頭を叩かれたみたいだ。

「…何」
「何じゃねーよ。片づけしろ、あとお前だけだぞ。」

そういわれて周りに視線を向ければ、しゃべりながらも片づけをしている3人。あの橋本流雨も面倒くさそうだが片づけをしている。…意外。

「(…何、言ったんだろ)」
「それと、こんなとこで雑魚寝したら風邪ひくぞ。寝るときはなんかかけて寝ろって言ったろ?」
「…おせっかい」
「お黙り」

朝燈は僕の両手を引っ張り立たせ、手を"小さく前ならえ"のようにしそこで固定との指示。生まれてこの方この形を経験したことがないのでちょっと感動、というのだろうか…していたところ、朝燈が段ボールを腕の上に置いてきた。

「重、い…」
「お前力なさすぎ…」
「…何」
「何じゃなくって、か・た・づ・け!!はい!さっさと動く!!」

あぁ、もうとても面倒くさい…。
これ以上朝燈に反抗するのは無理だなと思い、のせられたダンボールとともに自分のスペースへ向かう。幸い私物はそんなにないし、ほとんど朝燈がスペースまで運んでくれてたため、これ以上重いものを持つことはなかった。
服をタンスにしまったり本を整理したり…。単純な作業ではあるけど、何度も同じことをするのは面倒だ。
最後の本を手に取り、しまおうとしたところ、ふとどんな内容だったか気になりページをめくってみる。

「(あぁ。これ入れてたんだ…)」

人はしないといけないとわかっていても違うものに熱を入れてしまうらしい。例を出せは試験期間に入り、勉強をしないといけないとわかっていても部屋の掃除をしたり、ゲームをしたり。
ということで、僕も片づけをしないといけないとわかっているが、この本を読むことを決めた。

「お!篠原、何読んでんだー??」
「サボり」

そこに来たのは観月祐輔と橋本流雨。2人はもう片づけが終わったらしく、清々とした顔をしている。

「心理学の本…」
「おぉ、これ俺も読んだことあるわー!ところどころ面白いこと書くし、興味そそられる内容なんだよな。しぐさのあたりが気に入ってるー。」
「こんなしぐさ…するの、かな…」
「案外してるもんだぜ!お前は全く表情が動かねーけどな!笑え笑えー」

そういって観月祐輔は僕のほっぺを引っ張る。痛いんだけど…。
対する流雨は「こんな本読むなんてお前らきもい」と言って引き出しから充電器を取り出した。あ、電池切れたんだ…。

「(これから…この人たちと、暮らすんだよね…)」

共同生活なんてものはしたことはないし、家にいてもほとんど一人でいるから、同じ空間に他人がいるなんて変な気分だ。
この人たちだけじゃなくて、1階の共同ペースに行けばさらに知らない人がいる。

「(正直、少しやだけど…)」

「みーなーさーーーーんんんーーー?」

ドアの方から朝燈の声がしたのでむいてみればひきつった笑みを浮かべている朝燈がいた。

「あれれ、どうした三嶋!」
「声と顔きもいよ」
「……。」

「湊!!お前は片づけどうした!さっさと自分のやれ!!
そして祐輔さん!流雨さん!自分の終わったら共同の手伝ってくださいよ!!」

ついに堪忍袋の緒が切れたのか、さっきまで絶対怒鳴らなかった朝燈がどなった。まぁようやくいつもの朝燈が見れた感じ。
そこからは勢いが止まらないのか叫びちらし、観月祐輔は笑いながら、流雨は面倒臭そうに部屋から出て行った。

「(やだけど…)」


‐こんなのも悪くない‐
((かな…なんて、))

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