オズ夜美こらぼ番外編 | ナノ




 私が普通じゃないから、普通を求めるのはお門違いかもしれない。だけど。


『愛してるよ』


 やっぱり、言って欲しいじゃんか。
 テレビの中の人間は互いに涙を流して抱きしめ合っていた。想いが通じ、そして結ばれることは涙が流れる程の感動なんだろう。どんな感じなのかな。

 オズと付き合いはじめて一ヶ月。女好きというか、手が早いはずのオズが全くと言っていいほど私に手をださない。好きだとも言わない。登下校は三歩前を早足で進む。触れてきたこともない。むしろ最近は目さえ合わせようとしない。返事は適当。
 ……付き合って、むしろ仲が悪くなった気がする。喧嘩は確かに減ってはいるんだけど……話す時間も減った。
 何で付き合っちゃったんだろう。えーと……確か、いつの間にか私がオズを好きで……風来さんと話してたらなんかオズが無視し始めて、で……なんで無視するのって言ったら風来が好きなんでしょって言われて……オズが好きだと言ったらじゃあ僕のになってって……ん?
 そもそも、本当に私はオズと付き合ってるの? というか、オズは私のこと本当に好きなの?

 思考が波の渦に飲み込まれたみたいにぐるぐると回りだして気持ち悪い。 もう考えても始まんない。やらなければ。


「オズの気持ちを、聞こう」


 無理してるかもしれない。本当は好きなんかじゃないのかもしれない。だからこそ、私が聞かなきゃ。
 機会を狙うため、放課後まで待機していた。授業を盾に逃げられたら元も子もない。
 外がオレンジ色に染まっていく頃、私は意気込みながら図書室の扉を開く。基本的に屋上かここにいるからな……。

 だけど、そこに居たのは見たこともない女子生徒とその子を口説いてるオズだった。


「…………何してんだ、コラ」
「あーあ。残念」


 私の殺気にびびったのか、迫られて頬を赤くしていた女の顔が真っ青に染まって、図書室から転がるように逃げていった。残されたオズは机に体重をかけて、窓の外を眺めてる。ほら、やっぱり私を見ない。


「オズ、」
「今の話? 別にさっきの女に興味はないし、知らないやつだけど捌け口にはいいかなって思って」
「お前……」
「くすくす。何? 嫌なら別れろよ」


 ……何で、私を見ないのか。
 何で、別れたがるのか。
 心が黒い闇に包まれていくような感覚がする。それでも、オズに聞かなきゃならない。


「……お前は、私が嫌いなのか?」


 そんな質問に答えることもなく、ただ視線を鋭くさせて空を眺めてるオズ。
 なんか、気持ちが爆発しそうになっていた。油断したら質問ばかりたくさんしそうで、しょっぱい何かが溢れだしそうだった。


「お前は、私を捌け口とも、認識しないんだな……」
「…………」
「私の勘違いだったのか? お前に、お前のものって言われて浮かれただけだったなら、反省する……だけど、ハッキリさせたい……私はお前と付き合って……違う。お前にとって、私はどんな存在なんだ?」
「…………」


 オズは、答えようとしない。
 何処か苛立ってるみたいで、歯ぎしりの音が木霊した。
 ああ、やっぱり違ったのか。私が勝手に一喜一憂してた、だけかぁ……。

 さっきの女に劣る。
 オズにとって、私は……。


 拳を固く握りしめて私はオズに早足で歩み寄った。冷めた目線を向けてくるまえに、私はオズを机に押し倒した。目を真ん丸にさせるオズに、私は口を開く。


「答えないとわからない。その辺の女と一緒なら、捌け口くらいいいはずだ」


 オズの瞳が揺らぐ。
 答えてくれるまで、止まるつもりもない。
 唇を重ねようと顔を近づけたら、オズの手の平が口をおおった。
 拒否をされたんだ。

 目から、せきをきったみたいにボロボロと涙が溢れていく。そんな様子にオズはポツリと呟いた。


「……したら、飽きるでしょ」


 私に、飽きるってこと?
 疑問を口にしたくてもオズの手がそれを邪魔する。
 だけど、口に触れてたオズの手は何故か震えていた。


「…………風来が好きなんだろ」


 なんでそんなことを言うのか。私は、オズが好きなのに。
 言葉で通じないなら、行動しかない。オズの体に抱きついて、離れたくないと意思表示した時、変な違和感がした。
 固いものが、腹に当たってる。


「………もが」
「黙れ」
「もがもが」
「うるさい」
「も」
「だー!! この痴女が!! 処女かと思って慎重になってやったのにこの淫乱!! お前経験ないんだろ!? 経験ないやつは経験ないやつらしくしてろよ!! 気を使った僕がバカみたいじゃないか!!」


 夕日のせいか、本当なのか、オズの顔は真っ赤に染まっていた。止めどなく溢れてた涙も、言葉もピタリと止まった私の頬を撫でたオズが諦めたように笑った。


「君がそこまでお願いするなら、仕方ないね」


 今度はオズが私の唇を重ねようとするけど、おでこをつきだすことでそれを防いだ。
 不機嫌になっていくオズに、私は最後に質問する。


「オズ、私のこと、好き?」


 少しだけ、渋っていたけど、オズは観念したのかため息をついた。


「嫌いだったら、慎重になんてならないよ」


 答えになってないし、好きって言って欲しかったんだけどなぁ。
 だけど、今はそれだけでいいのかもしれない。
 心のタンクに幸せが少しだけたまって、私の口角が自然と緩んだ。



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