標的追跡者
「オズを殺りたい」
「わぁ、夜美が発情期を迎えたー」
「……は? はつじょーってわかんないけど、オズの全身の穴から血を出したいとは思ってるけど?」
「……流石」
学校が終わってから、中学の友達であるクロウに呼び出されてとある喫茶店で私はオレンジジュースをすすっていた。
ニコニコと笑みを浮かべてるクロウを、ウエイトレスさんは頬を染めて眺めてる。
「……冥土におくりてぇ」
「そんな物騒だと嫌われるよー」
「は? 別に私、みんなに嫌われてるみたいなもんじゃない」
「HAHAHA。人間ちょっと楽観的なほうが人生楽しいよ!」
人間じゃないし。そもそも、お前は楽観的な方じゃないし。
ストローを噛み締めながら、クロウをじとりと睨み付けていると、クロウはニヤリと笑って、本題に移る。
「で、オズベルト君とどんな感じなの?」
「……今日は屋上まで追い詰めたのに、あと少しのとこで屋上からつき落とされた。あの野郎蝿みたいにちょこまか逃げやがって……次こそは潰す!」
「そっか、進展なしか」
「クロウ。何で、私とオズの(殺し合いの)話なんか聞くの?」
純粋な疑問に、クロウは少しだけ考え込む素振りを見せて、ニッコリと微笑む。
「……楽しいからかなぁ」
「なんだ、ソレ」
「まぁまぁ。それより次の作戦でもたてる?」
「! うん」
クロウが次にオズを追い詰める方法を伝授してくれる。私は、それを試すだけだ。
▽△
時刻は放課後。
発生理由は「オズが私のカバンの中に牛乳をぶちまけた」
「オズゥウウウウウウ!!」
「ハハッ。こんなことでマジギレするなんて、夜美もお子ちゃまだねぇ。胸もないし」
「うるさい!! 今日こそお前を殺す!」
「殺れるもんなら殺ってみたら?」
「殺ってやんよぉおおおお!!」
木刀を振り回しながら、確実にオズを校舎の端へ、さらに奥へと追い込んでいく。オズも地形には強いはずだけど、行く先全てを破壊しつくせば逃げる場所は一つしかない。
四方八方。逃げるなら私の方向に走らなければならない場所で、オズはにやにや笑ってるも、冷や汗をかいている。
「……牛乳をカバンにいれるだけで学校半壊とか可笑しいンじゃないの……?」
「今日こそお前を仕止める」
「バカだなぁ。こんなに大騒ぎになったら、君、犯罪者だよ?」
「元から、そんなもんだ」
距離を詰め寄る私に、オズは観念したのか肩をすくめて、両手をあげる。だけど、心から楽しそうに見下す姿は変わらなかった。
「……殺ってみろよ、バケモノ」
ここまでは、クロウの言った通りだ。さらにここから、精神的に追い詰める。
オズの目の前まで近づいた私はオズのネクタイを引っ張って、おでことおでこをぶつけた。あと、片足を壁につけることで、ネクタイをもっと引っ張って首を締めることができるらしい。
「……はっ!?」
「人間は眼力で殺せるってクロウが言ってた。だから私に睨まれて死ね!」
「…………」
「…………」
『………………』
あれ、なんだろ。
近すぎないか、これ。
オズの黄緑の瞳が、じっと私に向けられてる。
時間が経つ度にどくどく心臓は加速していって、顔や身体がどんどん熱くなっていく。
聞いてない。私までこれ精神やられてるじゃんか! こんなの聞いてない!
これでは殺せない、そう思って離れようとしたら、オズがさらに顔を近づけた唇を唇にくっつけてきた。地面についた足に力が入らなくなって、オズのネクタイを掴みながら、地面へと背中から落ちていく。激しく頭をぶつけてしまったけど、気を失う程ではなく、顔をあげれば楽しそうなオズが私に股がっていた。
「……本当に、バカ過ぎてからかい甲斐があるよ」
また、失敗してしまった。
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