オズ夜美こらぼ番外編 | ナノ


翻弄ガール


 今日も、昨日も、きっと明日も口喧嘩とか、もう手がでる喧嘩まではじめてしまうのかもしれない。
これで相手と私が恋人同士だなんて言っても、誰も鼻で笑うだろう。でも、一応私とオズベルト・ヴェンチェンツォはそういう関係ではあったんだ。ほぼ肩書きだけみたいなもので、喧嘩か……まぁ、度が過ぎたことしかしない。
そうじゃないんだよ! もっとこうさぁ、恋人同士って手をつないだりとか、す、好きとか言ったりするよね? なんでそれがまったくもってないんだよ! アイツ私をもの扱いするけどさ、ほかの奴には譲りたくないんでしょ!? もうちょっと何かないの!?


「じゃあ、酔ったふりをしてみたらいいんじゃないです?」
「酔ったふり?」


 そんな愚痴を、中学時代のお友達である空ちゃんにこぼしていたら、空ちゃんは大して興味なさそうに、カフェオレを飲みながらそんな提案をしてきた。


「そうねです。まぁ、酔ってると思わせたら、相手も忘れるだろうと手を出」
「そういうオチは私いやだよ!?」
「……そういうオチから逃げ出すこともできるでしょうしです、勢いに任せてやりたいことできるし、覚えていられるでしょうしです」
「だからそんな恥ずかしいこと……!!」
「――相手の反応、気にならないのです?」





「オズ、飲むか!!」
「はぁ?」


 飲んでしまった。空ちゃんの作戦に。
 未成年のくせに何考えてんの? といぶかしげにこちらに顔を向けているオズの少し離れた場所で腰かけて、大量に買ってこさせた酎ハイのふたを開けて飲んだ。
 普段は確かに恥ずかしいし、いや今でも実行するのは恥ずかしいよ? でもさ、気になるじゃん! こ、こう、私が素直に甘えたら、どんな反応するか! 酒のせいにしたらきっとオズもそうそう考えないはず! 大丈夫。大丈夫大丈夫……!!

 本を読んでいたオズが呆れたのか、本に視線を戻すけれど、私はお酒を二、三本飲んでからまったく酔ってない体で行動を移そうと――……。

 ……むりむりむり。やっぱり恥ずかしい。オズに甘えるってそもそもなにしたらいいの? 自分の欲望のままに動いていいの? え? 抱き着く? キスする? 手を握る? 好きって連呼? 好きって言ってほしいとか言う? むりむりむり。そんなこと言った日には、私恥ずかしくて何回か自殺しちゃうよ。
 お酒を一気飲みのレベルで何本も飲んでいき、ピーチカシスを手につかみまた喉に流し込むと、オズがやっと私に顔を向けてきた。


「ちょっと、飲みすぎなんじゃないの」
「うるさい! も、もうううう……!!」
「はぁ? 君何がしたいわけ? だいたい酒臭いし、君みたいなどこから見てもガキなやつが飲んでいるところ止めないと、僕にも悪影響が」
「どうやってあまえようかかんがえてんの!! じゃますんな!!」


 なんか、顔とか、体とか、あつくなってきた。
 思考がぐるぐる渦巻き初めて、私は考えをそのまま、オズに吐き出し始める。


「だっておまえわたしのことすきっていわないし! きすだってなんかかわいいのじゃないし! やさしくだっこなんてしてくれないし!! がんばってすきっていおうとしてるのになにさまなんだよはくしゃくさまなんていったらぶっころすからな!」
「ちょっと」
「すきなんだよばーかばーかばーーか!! なんでいっつもいっつもわたしばっかりむちゅうにならなきゃならないんだよ! おんなのこにもてもてのくせになんでわたしなんか! むだにきたいさせんなボッ!?」
「うるさい」


 頭に、鈍い痛みが広がって、私は視界までぐるぐると渦巻いて地面に倒れてしまった。
 どうやら本の角を私の頭にぶつけたオズが、あからさまにため息を吐いて、気を失った私をそっと抱きかかえて、屋上から立ち去ろうとする。


「酒くさっ……」


 私が目覚めた場所は、保健室だった。




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