自我喪失戦争
私は人間が好きだ。
何時も何か目標があって、それに向かって一生懸命努力して、そして結果に繋がろうと繋がなかろうと何かしら産み出す人間が素敵で、羨ましくて、憧れた。何か壊すしかできない私にとってみれば、人間は私の希望だったんだ。
だからこそ、逆に人間を苦しめ、目標も結果も産み出したものも壊していくアイツが大嫌いだった。
「オズぅうううううううううううううう!!」
一刻も早く人間のため世のために消さなければならない忌々しい男を頭に浮かべながら、木刀片手に私は校庭で不良どもを蹴散らし続けていた。
何で私がオズの名前を叫びながら喧嘩をしているのか。正直なところ勘だった。
今までもだけど、高校に入学してから喧嘩を吹っ掛けられることが多くなった。それを蹴散らしながらも友達に調査してもらうと、すべての裏にオズがいるとこれはまたウザい展開になっていた。だいたいなんのために私が喧嘩しなきゃならないんだ。そう友達に訊ねると、その相手はオズにとって邪魔な存在だったからだそうだ。
つまりのところ、邪魔な人間を私に排除させているんだろう。
その人間の積み上げてきたものすべてを、私は台無しにしてしまう力がある。だから、人と出来るだけ関わらないように、喧嘩をしないようにいきようとしているのに。
「あ゛あああああああああああああああああああ!!」
腹の底から苛立ちと共に吠えた私の周りには、地面に 倒れた人間。本当は立ち上がって欲しいのに、前に進んでほしいだけなのに。何で、何で私につっかかってくるんだよ。
「今日も派手にやったね」
けらけらと笑いながら私に歩み寄ってきた元凶を睨み付けると、怖いと本当に怯えているわけでもないのに、大袈裟に演技をした。
「何が派手に……だよ。お前、何でこんなことすんだよ!?人間を殺す気か!?」
「君が手加減しなきゃいい話じゃない」
「そんなの無理に決まってるだろ!? わ、私の力知ってるくせに……!!」
「そうだね。でも君が好きなくせして大嫌いだっていう喧嘩をさせてあげているんだからいいじゃない」
は? 私が喧嘩好き?
なに、言っているんだこいつは。
だけど、オズが目の前に迫ってきて、携帯の画面を私に見せつけてきた。その画面に映っているのは、狂ったように笑みを浮かべて、人間を殴っている私のようなもの。
「何か勘違いしてるかわからないけどさ」
そして、オズは放心した私の頬を滑るようになでる。そして、悪意と混じった気味の悪い感情を含ませ、オズはにたりと笑った。
「僕は、夜美が苦しんでくれたらそれでいいんだよ? そうやって大切なものを壊して、自分がひとりぼっちのバケモノだってわかってくれたら、そんな絶望しきった夜美の顔をみれたらいいんだよ」
何で、何で。
私が何したって言うんだよ。
だけど、オズは私を逃がさないと言いたげに私を嘲笑う。
私の心を奥底を見透かすように、目を細める。
その笑顔が、とてつもなく恐ろしかった。
だから、だから。
「殺す」
こいつは消さなきゃならない。私のためにも、人間のためにも。
オズはそんな私に満足そうに笑う。
「そう。そうやって僕で人生を無駄にしたらいい。もっともっと絶望してくれたらいいんだよ」
これは、どちらかが自分を見失うまでの戦争だ。
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