アダルトチルドレン
ちょっと聞いたことがある。ジャックより身長が高くなったからわざわざ小さくなる薬を飲んだとか、見分けつけるためとか。でもそれはあくまでも噂で、憶測に過ぎない。
自分より巨漢な奴らはだいたい地に沈めてきたからこそ、今現在壁のように大きくなった男を目にして、なんか心の中がもやもやし始める。
「何拗ねてるわけ?」
「別に拗ねてないし……ほら、できたよ」
「でも感謝しなよ? 薬が切れて僕の半裸見れるなんて一生に一回くらいじゃないかな」
「いっそトラウマでも植えつけられた気分だよちくしょう」
ケラケラと笑いながら私を見下ろすオズは、威圧感があるけれど、負けじと睨みつけるとまた相手にされてないみたいに笑われる。
もともとの身長が高かったの、知っていたけど、オズの胸にいくかいかないかってどういうことなんだよ。この足膝だけおったらちょうどいいんじゃないかな? よし、折るか。
回し蹴りでオズの膝を完全に折り、ちぎってしまおうと思ったら、私の足のリーチが届かないところまで下がってよけられてしまった。私の足がもっと長かったら、当たっていたんだろうな。
「ちょっと、あぶないじゃないか」
「大丈夫。一瞬だしそれなりの責任はとる。お前の入院費くらいは出すよ」
「人の自由奪っといてなにそれ? ……あー。なるほど。夜美チビだもんねー。僕に見下ろされるのがそんなに嫌なわけ? 本当、子どもみたい」
オズにとっては、いつものようにからかっているだけだろう。
だけど、子ども扱いされたくはなかった。だって、私は一人の女で、一人のバケモノで、オズと対等であると信じていた。信じたかったんだ。
なのに、こんなに大きくなったら、遠くなったみたいで、寂しい。
ふと、オズのまん丸になった瞳に、自分の頬が水で濡れていることに気がついた。慌ててその水を手の甲で拭い取ろうとするけれど、なかなか袖では拭いきれない。
「は……は? 何泣いてるわけ? 泣かせようと思って言ってるならもっとキツイこと言ってるんだけど。それだけで泣いてるってどんだけ繊細なわけ? バケモノのくせに」
「うるさい。ほっといてよ」
「いや、訳がわからないんだけど。何で泣いてるわけ?」
「だまれ」
「本当ガキみたいなんだけど」
「死ね!」
オズのお腹に頭突きを食らわせると、みぞおちにはいったみたいで唸り声をあげる。そのままオズの胸におでこをおいて、上を見上げると私を睨みつけながら見下ろすオズの視線と交わう。
これだと、背伸びしてもキスできないんだな。
「なぁ、お前私が好きなんだよな?」
「さぁ、どうかな」
「……今は、そこにつっこみをいれないでおいてやる。だから、キスしろ」
「は? 何で命令口調なわけ?」
「いいから! ……私からじゃ、できないだろ」
しぶしぶとそう呟くと、オズはやっと気がついたのかにんまりと笑みを浮かべて、私の目線より下になるようにしゃがんだ。幼稚園児をあやすみたいに私の頭を撫でるのが逆に挑発しているみたいで、心底性格が悪いなと痛感させられる。
「ガキ扱いされるのが嫌とか、それこそガキくさいと思うんだけど?」
「…………」
「無言は肯定とみなすけど?」
「……お前は、ガキみたいな私によくじょーするのか?」
散々に言われてしまったから言い返すと、オズはくすくすと小さく笑いながら、頭をなでていた手を私の後頭部に当てて、互の顔を近づける。
「ガキのくせして、背伸びするからこうなるんだよ」
悪い大人に食べられた子どもみたいに、言ってんじゃねぇ。
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