陰謀攻略戦前
最初は、好奇心だった。
番長格があるなだなんて、最初は興味なかった。だけど「創立史上最強の番長が現れた」なんて噂が流れたら興味も持つだろう。しかも、そいつが女ならなおさらだ。
なんでも、三年の前番長が、カツアゲをしている最中に女が現れてフルボッコにしたらしい。それこそ瞬殺、しかも地獄絵図だったそうだ。そして、女は入学早々謹慎処分を受けていた。女が教師に残した言葉は、「ただ、頑張ってお友達を作りたかっただけ」だったそうだ。
友達を作りたかったくせに、直ぐに孤立して、他校の不良どもからも最強の座を奪おうと売られた喧嘩を買う日々。これほど彼女が望んでなかった日々はないだろう。
だからこそ、気になったのだ。そして、その女に接近した。
自慢で結構だけど、事実だからハッキリ答えよう。僕は結構なんでもできるし女にもモテる。そりゃ勉強もできて運動もある程度できて家が金持ちが顔が良かったら、寄ってくる女なんて星の数ほどいるだろう。まぁ性格悪いのは自覚しているんだけどね。だからこそ猫かぶるのさ。それに騙される馬鹿な女が悪い。
だけど、その入学早々バカなことをしたバカの代表のような女は僕を見た瞬間からそれを見破った。動物的な勘なのだろうか。それも興味をそそられる。
ただ、材料にしてやるために近づいた。もっとバケモノを知るために、研究するために、ネタにするために。
それが、仇になったんだろう。
「何の用だ。オズ」
冷たく吐き捨てる小さな体は震えていて。辺りに転がる少しだけ赤くそまったり、青く腫れ上がる男をぶちドメしたなんて、思いもしない。
そう。こいつは極端に弱いんだ。体じゃなくて、喧嘩じゃなくて、こころが。
ひとりぼっちだと、直ぐに泣く弱虫。自分については誰よりも過小評価でうざい性格。
観察してきたからわかる。いやでも、こいつのことが全部。
だから、もう予想ついているんだ。
お前が、喧嘩を買ったこと自体にも、罪悪感を抱いていることくらい。
売ってきたのは相手だから、これくらい正当防衛のはずだ。だけど、また自分を責めて、相手への罪を背負い出す。そんなに小さい背中のくせに、全部背負い込もうとする正真正銘のバカ。
純粋すぎて、優しすぎて、だけど狂っているバケモノ。
「……お前もさぁ、いい加減懲りて私から離れたら? 喧嘩に巻き込むことだって……あるかも、だし」
小さく、寂しそうにつぶやき、こちらを振り向こうともせず、ただ前を歩き始める。
僕の上辺だけしか見てない連中とは、全く違う。
僕の本性を知って、まだお前は僕に気遣うんだね。
本当に、本当に大馬鹿者じゃないか。
そのくせに、なんでこっち見ないのかな。なんで、前に進もうとするのかな?
「夜美」
「……何?」
一言、夜美を呼ぶと、一度だけ夜美は立ち止まる。
こんな時、夜美ならどうして欲しいか? 背中から抱きしめる? 違うね。例え一時安心してもすぐに自己嫌悪し始めて二の舞だ。じゃあ離れる? それこそ本末転倒だろう。
……何、綺麗な選択肢だけ考えているんだか。違うでしょ。
夜美の場合、腐ってる方がいけるんだよ。
「手を組まない?」
「……は?」
「君のお友達作り手伝ってあげる。その代わり、僕の用心棒をして欲しいんだ。ま、僕くらい万能だと妬まれたりするんだよね」
「……自慢か? 嫌味か?」
「どうとでもとればいいよ。ほら、乗るの? 乗らないの?」
僕のことをやっと振り向いては、怪訝そうな表情を浮かべていたけれど、しばらく考える素振りをし始めた。
そうだ。お前の甘い蜜はそこにある。さっさと乗ればいい。さぁ。
「……友達、できるんだろうな」
「ま、できるんじゃない。乗ればだけど。それに、乗ったら乗ったで、常に僕の警備なんだから、それなりにいい待遇だよ」
「傲慢。ナルシスト」
散々罵倒してくるくせに、夜美は肩をおろし、二つの文字で答えをだした。
これで、同じラインに立てた。あとは、ゆっくり支配していくだけ。
僕だけしかみれないようにするだけだ。
……友達? ああ、一瞬だけ僕がなったら問題ないでしょ?
一瞬だけどね。
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