ねっちゅーしょー
「……あつい」
「人間は大変だね」
クーラーが壊れているみたいで、買い換えるまで少しかかるらしい。オズの部屋に遊びにきたはいいものの、珍しく汗びっちょりだし、扇風機の前から離れようともせず本を読んでいた。
私の存在まで鬱陶しいとばかりに不機嫌だから、こちらまで嫌な気分になっていく。
「おーずー」
「近寄るな暑苦しい」
「何のためにこの家に来たと……」
「パシり?」
「違うわ!!」
「ヤりに?」
「ちっ、違う!!」
「期待したくせに。どーせ下も」
「うるさいうるさーい!!」
「ハイハイ。黙るからちょっと静かにしな」
呆気なくあしらわれてしまった。いや、だいたい私はらぶらぶといいますか、好きって言ったら好きって言い返してそれは幸せって思いたいからここに来たわけで、別にやらしいことしたわけじゃないし。やらしいのもそれに近いけど私はそこまで望んでないし。
かといって、ここまで相手にされないのも尺に触る。なのでジリジリとオズにハイハイで近づけば、オズはうんざりした表情で私に顔を向けた。
「ちょっと、近づかないでよ」
「やだ」
「やだじゃないでしょ暑苦しい。クーラー来たら構ってやるから。そんなにしたいなら風呂場で冷水辺りながらならいいよ。そんなにしたいならね」
「違うし」
「何が違うってああもうだから近寄るっあああ!!」
オズに飛び付くように抱きついたら、オズの体は案の定暑かった。だけど、オズははたと私を剥がそうとした手を止めて私をぺたぺたと触る。
「…………冷たい」
「そりゃ、人間の体じゃないもん」
「は? お前子供体温じゃない」
「誰が子供体温だ!! せっかく人が嫌嫌バケモノになってるのに!」
まぁ、私はバケモノなわけで、バケモノは人間みたいに暖かい必要がない。私は人間に一番近いように化けてはいるけれど、その必要が無ければ体温も無くせる。逆に言えばオズの体は普段よりさらに熱い様に感じられる。焼けそうだけど、それがいい。
「これなら、ギュッてしていいでしょ?」
「……勝手にしたら?」
「やったぁ」
私に背を向けるから、背から完全に密着するくらいに抱きついてオズの肩に顔をのせた。オズ自身、鬱陶しそうだけど拒まないから、……まぁ、許してくれるみたい。
「……首に触れたらただじゃ済まさないからね」
「はぁい」
「もっとちゃんと返事して」
「はい!」
「…………うざっ」
悪態はつくけれど、スッゴクオズが腕の中に居るんだって実感できた。普段は拒否しまくるから、スッゴク幸せ。
それに、オズの匂いちょっと違うんだよね。汗とオズの匂いなんだろうけど、混じるとまた好きな匂いだ。
そしたら、オズの頬に汗が一滴落ちたから、ちょっとの好奇心でその汗を唇で吸いとった。オズの体ばビクリとビックリしたように跳ねて、本が地面に落ちる。そして腕が私の顔を鷲掴んだ。
「二度と、そーいうことしないで」
「あ、あいあいさー…」
またイライラし始めたオズだったけど、何かを思いついたようで、ニヤリと悪魔の様な笑みを浮かべた。背筋に氷が滑り落ちたような悪寒がして、オズから逃げようとすると、視点が公転して、天井とオズの不敵な笑みが視界一杯に広がる。
「今の君の中って、もちろん冷たいんだよね?」
あ、これマズイパターンだ。
「ちょ、今から業者さん来るんでしょ!?」
「その前に終わらせればいいじゃない」
「絶対バレる!! 臭い残るよ!」
「汗で誤魔化せるんじゃない!」
「ダメだって絶対間に合わなっ」
「黙って」
オズがそう言った直後、唇で口を塞がれた。私を地面に拘束してた手が手首から手に這って、指が絡み合う。最初から、こうするつもりだったみたいに、私はオズを簡単に受け入れた。
だって、それだけ一緒に居たかったんだもの。
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