放課後初デート
たまたまだった。
昼休みに噂話で聞いたカフェに興味をもって、どうしようかなってわたわたしていたら(哀れなものをみるかのような目線で)連れて行ってやろうかとオズに言われてしまった。
これは、いわゆるデートみたいなものだろう。
これが、噂に聞く放課後デートというものなのかもしれない。
ふ、風来さん寄り道だめっていいそうだけど、たまにはいいよね。人生で一回きりだろうし、人生には経験も大切だって風来さん言っていたし!
「ちょっと、何考えてるのさ」
「いたた!! やめへよ!」
いきなり頬を引っ張ってきた指を離したオズがそっぽを向いてそのまま先へと目的地に早足でそそくさと歩いていく。私とオズは三歩くらい間があって、近寄ろうにもすぐに距離を離してくるから、仕方なくこの距離を保っている。
放課後デートって、ここまでそっけないものなんだろうか。私が聞いた噂だと、手を取り合って、並んで、一緒に歩くみたいな……。
……オズにそれを期待するのも、おかしいことか。
一緒にいられるだけで儲け物だ。何をわがままになっているんだろう。誘ってくれたのだって、初めてなんだぞ? これ以上は望むな。欲深くなるな。
ぶんぶんと頭をふって少し落ち着こうとしたら、ちょっとした道はずれから何かの鳴き声が聞こえた。吸い寄せられるようにそちらに足を向けていくと、オズが私の様子に気がついたみたいでイライラとしながら私の背を追いかけてくれた。
きっと何か文句を言おうとしていたんだろう。だけど、しゃがみこんだ私の目の前の生き物をみて、げんなりとした表情になった。
「何してんの?」
「や、あの……猫……」
にゃーにゃーと泣きながら私に擦り寄って何かを求める猫をオズは忌々しげに見下していた。どうしようかとオズと猫を交互に顔を向けてしまうけど、猫がごろごろといいながら今度は体を摺り寄せてくる。
「一丁前に人のものをマーキングしてるわけ?」
「……マーキングってなに?」
「…………」
はぁ、とあからさまにため息をつくオズにカチンと来てしまうが、どうも猫が私に擦り寄ってきて可愛い。全てのイライラを忘れさせてくれるようだった。
黒い毛並みに、緑色の瞳はどこかオズに似ていて、心惹かれてしまう。
「……飼いたいなぁ」
私に近寄ってくれる動物なんて、そうそういない。むしろ神様か何かが私にこの子をさずけようとしているのではないだろうかと思ってしまった。
だけど、そんなつぶやきをこぼした瞬間、肩を軽く引かれて、黒い何かが私の首筋に歯を突き立てた。
「いっ……たぁあああ!!」
悲鳴とリップ音が鼓膜を震わせて、私から離れるオズのしたり顔に、自分の顔が真っ赤に染まっていくことを自覚してしまう。そしてオズがにやりと笑って、私に告げた。
「マーキング。隠しちゃだめだよ」
そのまま先へ進むオズに、猫は草むらに逃げてしまって、私は慌ててオズの後ろを追いかけてしまった。
首筋に残る歯型、最悪キスマーは残っているんだろうか。残っていたら、カフェとかで見せつけちゃうみたいになるんだろうな。オズのって、知られちゃうんだろうな。
そう考えたら考えるだけ心臓がどんどんはやく、大きく鳴り響いて喉から出ちゃうそうになるほどだ。だけど、私の様子にオズはくすりと笑って呼びかける。
「遅い。はやく歩きなよ」
先ほどと距離は変わらなかったのに、オズは近寄ることを許してくれて、それが嬉しくて一緒に並んで同じ足幅で歩くことができて嬉しかっなぁ。
そして、さも当たり前のように私の手を握ってくれたオズに、幸せの気持ちがたくさん溢れて、衝動に任せてオズの手を握り返した。
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