恋愛シュミレーション
「オズ、聞け」
「バケモノの言うことなんて聞きたくないけど今日は許してあげるよ」
「……えと、私は……あんたのことが、すっ」
「…………」
「すっ、すすす、す、隙を作って八つ裂きにしたい!!」
「知ってるんだけど、そんなこと」
ああ、今日もダメだった。
朝から気合いをいれて夜にシュミレーションした言葉――所謂告白をしようとしても、フラレるだろうし、それ以上に絶縁されてしまったらどうしようとか、どこか胸の奥がむず痒くて、どうにかなってしまいそうで、言おうとした言葉じゃなくて全く別の言葉を口にしてしまう。
朝の一件にため息をつきながら、放課後、人が少ない屋上へと向かうと珍しく寝転がっていた。まぁ、下にシートを引いてる時点で奴の潔癖症が明らかになるんだけど。
恐る恐る近づいて、オズの顔を覗き込んだら瞼を閉じて、寝息をたてていた。
変な違和感がするものの、それは何時もだ。気にすることを止めて少し頭を撫でると少し眉をしかめて唸ったから慌てて離す。そうしたら、何事もなかったように夢の世界に旅立っていた。
寝顔は可愛いのになぁ。ぼうっとしながらオズを見ていたら、はたとあることを思いついた。
目の前には本人。だけど、本人は夢の世界に旅立って私の声なんて聞こえていないはず。
つまり、つまりは今がチャンスなのではないだろうか。告白の練習の、チャンス。
正座をしてオズに向き合い、考えていたことを口から吐き出すように告げる。
「私ね、本当はね、オズのこと……す、す、好き、なの」
拒絶される心配がないからか、恥ずかしさに身を燃やしながらも、私は自分の思いをオズへと伝える練習をする。
「私を怖がらないオズが好き。私に近寄ってくれるオズが好き。策略だろうけど、たまに優しくしてくれるオズも好き。私が変な奴に絡まれた時、助けてくれたオズが好き……オズは、私で遊びたいからしてるんだろうけど……遊んでくれるオズも好きなんだよ」
溢れていく気持ちを抑える術なんてないし、常識とか、人間らしい告白なんて出来ない。
バケモノは、バケモノらしく本能で伝える。
「だからね、だから……オズの匂いも、温もりも安心するんだ……オズにもっと見られたいし、触れられたい……オズともっと、もっと一緒に……!?」
まだまだ言いたいことがあったのに、オズの体が急に跳び跳ねて私に飛びかかってきた。突然のことで状況に対応できない私の唇にかぶりつくようにオズが唇を重ねてきた。
地面に押し付けられて、言葉の行き先を塞がれてしまった私に、唇を離してオズが私に馬乗りになりながら、吐き捨てる。
「黙れよ……」
怒っているんだろうか。
私を理解できないのだろうか。
私を拒絶しているのだろうか。
ただ、私の告白をオズが聞いていたことは確かだった。そして不安で直接伝えられなかった言葉を聞かれて拒絶されているにも関わらず、嫌な気分でもなかった。
だって、私が見上げているオズは顔が真っ赤なんだもの。私を睨み付けているけど、それはオズの中の沸き上がる何かを抑えるためみたいだった。
オズが私の肩を地面にと押し続ける。手ごしに、オズのぐちゃぐちゃになった気持ちが伝わった気持ちになれる。
ちょっとでも、私をすきになってくれたのかな? 喜んでくれたのかなと思っていたら、オズはじとりとこちらを見つめて呟く。
「……何考えているのさ」
「え。オズ嬉しいのかなって」
「はぁ!? なわけないでしょ!? 自惚れにも程があるよ!」
「……嬉しくないの?」
「当たり前だ!!」
普段のオズなら油断しないはずなのに、考えるはずなのに。
私が、嘘と真が判別つくくらいには勘がいいこと。
思わずにやけてしまって、オズはそれが気にくわないのか頬を伸ばしてくる。
ねぇ、期待しちゃっていいのかな?
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