類は友を呼ぶ
「とぅるーえいぷりるふーる? なにそれ?」
「英国ではエイプリルフールの翌日、真実しか語らないそうですよ」
歩実が珍しく本じゃなくてパソコンをいじっていた。歩実曰く、インターネットのほうが人間の本性が丸出しで楽しいかららしい。わざと炎上するようなことを書いて楽しむような最低なやつなんだから仕方がない。
でも、さっきの話は本当なんだろうか。いや、でも今日はそのとぅるーえいぷりる? とやらなんだし、言っている本人が嘘をつくはずがない。
うんうんと唸っていたら、歩実がパソコンに目を向けたまま、最後に私に投げ捨てるように口にした。
「だから、プロポーズしてるカップルがいるらしいですよ」
プロポーズ。真実しか語らない日。
なんだかすごくロマンチックで素敵でふよふよ宙に浮いているような気持ちになれた。そしてなんだかさっさとあいつの側に痛くなって、歩実のことなんか気にせずに私はその場を後にした。
もちろん。向かうのはあいつの場所。
「よ、よお」
「……何?」
ゲンナリとした様子のオズが屋上で本を読んでいた。私はおそるおそるとちょっと間をあけて横に座った。
聞きたいことはある。だけど、これ訊ねるのもなかなか恥ずかしいな。
もじもじとしてしまっていたら、オズがわざとらしくため息をつく。まぁ、本から視線は外さないけど。
「盛ってんの?」
「はっ……はぁ!?」
「ここでしたいなら相手してあげるけど?」
やっと本から視線を変えて私に向けたオズ。だけど、どこか挑発的で、そのまま私との距離を詰め寄ろうとしているから、これは別のフラグでやばい。
今日はそれをするために近づいたわけじゃないんだ。ただ、聞きたいことがあって、伝えたいことがあって近づいただけなんだ。
距離がゼロになった時、私はオズの胸を押し返してしまった。力はいれてないから、弾き飛ばされることはないだろう。だけど拒絶したのはたしかで、あからさまにオズの機嫌が悪くなっていった。
「……どういうつもり?」
「あ、あの、お、オズ」
「……?」
「私のこと……」
好きか、そう聞く前にはたと私は思い至ってしまった。
こいつ、とぅるーえいぷりる? を知っているんだろうか。
というか性格悪いやつのことだ。知ってたとしても事実をいうことはないだろう。
なら、なら。
私の気持ちは絶対だって伝えるしか選択肢はなかった。
オズの目を見上げると、オズはたじろいたように目を丸めた。そんな黄緑色の瞳から目を離すことなく、私は告げる。
「私、毎日オズにお味噌汁作る」
「…………は?」
「作る、よ?」
これ、伝わっているんだろうか。意外にすごく恥ずかしい言葉に顔だけじゃなくて耳まで真っ赤になってしまった。オズ自身は石のように固まってはいるけど、胸に置いた手から、ドクドクと鼓動が早く加速していっている。
「お、ず……? わっ」
「興ざめ」
私の肩を押してその場を立ったオズがそのまま屋上から立ち去ろうとしている。
その背を唖然と見送り、オズの背中が見えなくなってから、アイツが忘れた本を拾い上げた。
さっきの心臓の音はウソだったみたいに、オズの表情は冷めていた。
なんだか呆気なかったなぁってぼんやり思いながら、私は校庭の桜を眺めていた。
▽△
ああ。最悪な気分だ。
廊下を早足で歩いていると、おやとわざとらしい独り言に、僕を呼ぶ声が耳にはいった。そのけたたましいというか、挑発しきった呼びかけに口角がひきつる。
「どうでした? 夜美に嘘の情報を吹き込んだのですが」
「……君が原因か」
「おやおや。これは引っかかったようですねぇ。彼女、本日は真実しか語らない日だと吹き込んだんです。どうです? 好きなのかとか聞かれましたか? ん?」
白い髪の女がにやにやと僕を見定める。
なんでそれを言うのかなぁ。僕の周りは、なんでこう性格の悪いやつしかいないんだ。
「勝手に妄想してたら?」
ただ、余裕がなくて、油断したら僕のアイデンティティが失われそうで僕はその場を後にする。そして、僕がいなくなったあとにあの悪女はくすくすと笑いながら呟いた。
「ふぅ。ジオも流石にあの男の赤面写真を見せれば食欲も減るでしょう。目的は果たしましたね……」
どいつもこいつも、本当タチが悪い。
prev / next