オズ夜美こらぼ番外編 | ナノ


言の葉ディナー


 好きな人に突然ちゅうされたら、皆さんどんな対応をしますか? 私はバケモノなので、イマイチわかりません。
 つきあっているならありえること? 喜ぶこと? いいえとんでもありません。私とヤツはつきあってません。むしろ殺し合う仲です。そんな殺し合う相手を好きになるのがおかしい? 私と殺し合おうとする度胸に惚れたんですほっといてください。
 それより、その状況について説明しようと思います。何時も屋上で本を読んでいたヤツの頭は何時もおかしいので一回ぶん殴ることを目標に屋上へ向かいました。しかし、その日ヤツは屋上にいませんでした。春だからか、日差しがぽかぽか屋上を温めて気持ちよかったんです。そのまま寝転んでぼーっと空を眺めていると、眠気が私を襲って眠りの世界に旅立ちました。そして目が覚めたころにヤツが私の隣で本を読んでてなにをしてるって言ったら、私の間抜け面見ていたと言いました。腹がたったので殴りつけようとしたら、何故か胸ぐらを掴んで唇を重ねてきます。すぐに離れてしまいましたが、私の唇と重なった唇を動かして、オズは言いました。


『次、そんな無防備だったら犯すから』


 どんな反応をとればよかったのでしょうか。
 呆気にとられる私を置いて、オズは屋上から立ち去って行きました。
 この状況に、どう感じ、どう行動したらいいのでしょうか。


「だ、だぁあああああああああああああああ!!」


 脳内に巡り巡る自問自答を振り払うみたいに私は叫び声をあげた。おかしい。世の中おかしい! だって、アイツは私なんか好きじゃないんでしょ? 大嫌いなんでしょ? 殺したいくらいにさぁ!! む、無防備だったら殺せばいいのになんでちゅうするわけありえないんだけど!! す、好きでもない女に、なんで無防備だからってちゅうできるの!? ああアイツ女たらしでしたねでも女くらい選べやあのくそタラシ!!

 オズへの罵倒が脳内に浮かぶものの、唇は熱くて、情けないことにべろで唇を撫でてしまった。オズの唇が舌に触れたと思うとなんかすごい恥ずかしくなって屋上にうつぶせになって足をバタバタと暴れさせてしまう。
 ああ、私だけアイツに惑わされてる。振り回されてる。
 でも、それはどうも嫌だった。
 無差別ということは、私もその他の女であるということだろう。ムカつくヤツでもヤツの中で特別になりたいと思う私はだいぶ欲深くなっているんだろう。
 ならばと私は立ち上がって、オズの跡を追いかけた。
 私の固定概念かもしれないけど、それでも伝えたかった。

 オズを探しているといつの間にか空はオレンジ色に染まっていた。匂いでわかるはずなのに、どうもあちこち歩き回っているみたいで追いつかないが、やっとオズの姿が見つかった。
 夕暮れに染まった図書室はとても不思議な空間で、オズ以外の人間の影が見えなかった。肝心の本人は、気持ちよさそうに寝息をたてている。軽い睡眠なのだろう。本を膝に置いて、こくりこくりと頭を揺らしていた。
 そんなオズに接近して、触れられる場所にしゃがみこみ、オズの顔を覗き込んだ。オレンジの光を背に、どこか優しげな表情で眠っているオズは見たことがなくて、また胸の奥が熱くなった。

 欲しい。そう願うのはおかしい感情でもないだろう。
 自然と私の体は動いていて、屋上で起こったようなことを、私からしてしまった。
 一瞬ではあるものの、唇を離して目を開けると、オズが顔を真っ赤にさせてこちらを見ている。急に恥ずかしくなって、それをごまかすように、言いたかったことを口にした。


「好きな人以外にこーいうことすんな、バカ」


 目が点になるオズに、これは声をかけても無駄そうだなあと家に帰ることにした。
 図書室の扉を跨ぐ時も、オズは完全に固まってるみたいでちょっと嬉しかった。
 今だけは、特別でありたいという欲深い怪物の願いが叶ったからかもしれないね。



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