おこちゃまレベル
気に入らない。
オズはバレンタインでたくさんチョコを貰っていたから、お返しもしっかりしている。もらった子に何やら箱みたいなもの渡して、そして女の子達は頬を緩ませていた。
バレンタインで私のチョコを踏み潰しながら食べた阿呆だったけど、借りを作らないためだったのかと思ってしまうほど。
結局、私はオズに告白したのにも関わらず、アイツからは一言も好きと言われたことがない。
なのに事あるごとに私を使おうとする。もはやパシリ化しているのかもしれない。
アイツにとって、私はいい道具なのか。現に私だってあげたのにお返しなんてものはもらってない。別の女の子に渡すお返しの入った手提げを持たされてる現状だ。
「同じクラスの奴らには返せたかな」
「……こんなによくやるよ」
「借りは作らない主義なんだよ。だからって断ると変な噂立てられるでしょ? 夜美と違って僕はそれなりに気を使ってるからね」
「んだとコラ」
「言い返したかったら、少しでも空気読めるようにしておいたら? ほら、次二年のとこ行くよ」
先輩からももらっていたのかと落胆しそうになるも、オズについていかなければならない。だってお返しは私が持っているんだもん。
オズの背を追いかけて、私とオズは廊下を歩く。他の生徒がじろじろと見てきているのは私が歩いているからだろうか。
「……どこ見てんのさ」
「えっ」
振り向いて不機嫌顔をこちらに向けるオズ。私は何かしてしまったのかと慌ててしまったが、ふとあることを疑問に思いオズに訊ねた。
「このお返しさ……中身なんなの?」
「話そらすわけ? 都合がいいんだね」
「そ、そらすって……!!」
「中身はマシュマロだよ。○モーヴってとこの。知ってる?」
「う、牛さん……?」
「馬鹿だね」
なんでここまで罵倒されなきゃならないんだ。
肩を落としながらも、結局はオズの側から離れたくなくて、オズのお返しの手伝いをしてしまっていた。何人かは私のことをオズにたずねていたけど、オズは気にしなくていいみたいにわらってるし。本当、私は道具でしかないのだろう。
結局、最後の一個までわたしきってしまった。最後は先生だったな……おかしいだろ世の中。
「おつかれ」
ぽんぽんと珍しく頭を撫でられた……か微妙にわからない仕草に空になった手提げを通した手ごと撫でられた部分を触ってオズを見上げると、目の前にあるものを突きつけられた。
「はい、ご褒美だよ」
それは棒状のもので、そして先端にぐるぐるとしたカラフルの円盤が……。
「お前……舐めてるだろ?」
「舐めるのはこれだけどね」
子どもがよろこびそうな、ぺろぺろキャンディを私に差し出してきた。
完全に子ども扱いされてる。これ、バレンタインの出来事なかったことにされている。
唖然というか、もう失望してしまったような、真っ青になる顔を見ることが楽しいのかオズは本当楽しそうだった。そして、追い打ちをかけやがる。
「これ、バレンタインのおかえしね」
ふざけてやがる。
ここまでこき使って、ぺろぺろきゃんでぃ。高ければ高いほどいいって思考ではない。だけどモノによるだろう。なんでガキ扱いされなきゃならないんだ。
むくれてる私にオズはやれやれと肩をおろして、呆れたように口にする。
「だから、君のモノサシで僕をはからないでくれる?」
「……なぁ。じゃあお前にとって私はなに?」
「馬鹿なこども?」
「死に晒せやぁ!!」
回し蹴りをかまそうとしたら間一髪でよけられてしまった。想定していたようで余裕そうにオズは笑っている。だけど、細めていた瞳がにたっと弧を描いた時には私に詰め寄っていて、壁に押し付けられていた。
「大人扱いされたいの?」
「そ、それは……!!」
「もう一つ用意してるんだよね。まぁ、上の口で食べさせるつもりはないけど」
にやにやとしながらカラフルで綺麗な飴玉がたくさんはいった袋を鼻先に突きつけられてしまった。
結局飴玉なんだ。ああ、ほとんどこども扱いされてるじゃないかちくしょう。
だから、私は精一杯の反抗のつもりで挑発したような笑みを浮かべて言ってやった。
「やってみろよ」
私の煽りに、オズはまた妖しげに笑う。
そして、手を引かれどこかへ連れて行かれる。きっと、人気がないところへ連れて行かれるんだろう。
いつか、いつか絶対夢中にさせてやる。
繋いだ手を握り締めて、そう決意した。
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