オズ夜美こらぼ番外編 | ナノ


ダークリスマス

 やっぱり、町を歩くとなんとなくいいなぁって思うときがある。
 そう言っても、私が歩くのはもっぱら屋根の上だ。町中を歩くと、人にいちいちびびられてストレスがたまる。
 今日はくりすます、というものらしい。
 いえす、なんて肯定って意味なのか、そんな変な名前の人が生まれた日。ん?あの人アメリカ生まれだっけ?よく分からないや。
 風来さんも、珍しく教師の飲み会に強制連行されたらしい。嫌なら殺すのに、それだけは止めてという風来さんは本当に優しい。
 真也も、部活の集まりがあるらしい。こうなったら、私を警戒してる父さんと母さんといつも通り過ごせるはずがない。
 そもそも、私はくりすますというものをしたことがないのだけれど。

 商店街はキラキラとイルミネーションで光輝いている。家族連れも多いが、男女が一緒のケースが多い。
 みんな、幸せそうな笑みを浮かべていた。
 きっと、めでたい日なんだと思う。

 年中、自分と他人の死しか目にしない私にとっちゃ、別次元に一人置いていかれたような気分になる。


 町から逃げるように屋根をつたい、静かな公園へと着地した。しかし、誰もいないわけではなく男女が体を密着させていた。
 どこへ逃げてもどこへ逃げても同じ。
 誰かがいて、笑い合っていた。
 羨ましい、妬ましい。
 私も、誰かと笑顔になりたい。
 ひとりぼっちは、さみしいよ。

 もうトイレにでもこもってやろうかと公園に戻ろうとしたら、何か暖かいものが首に巻き付いた。
 もこもことした、黒いマフラーが、ぎりぎりと首をしめた。


「ふぐぅ!?」
「クリスマスなのにボッチなんて悲しいね。流石化け物だ。で、ボッチだから人の迷惑にならないようにあちこち逃げたって? 君なんか生きていても迷惑って気付かないかな」


 振り向いたら、黒髪を三つ編みにした男がいた。冬休みに入ったから、会うのは久しぶりだろう。
 深緑のコートを着ていてる姿は始めて目にする。寒さからか、頬や鼻、耳を真っ赤にさせている。黄緑色の瞳が鋭く私を睨み付けていた。


「な、なんなのよ。それくらい知ってるよ! ほっといてくれないかなぁ!?」
「へー。知ってたんだ……意外」
「んだとこら!」
「それより、行くよ」


 ぐいっと手を捕まれて、引っ張られた。
 誰かに触れられたのは久しぶりで、体が固まる。動こうとしない私にオズは眉をしかめた。


「どうせ、一人なんでしょ? ボッチでクリスマスを誰かと過ごしたことなさそうな君と、わざわざ僕が付き合ってあげようとしてあげているのわからないのかな?バカだからわからないか。ごめんね」
「な、そ、そんなこと……」
「へぇ、あるんだ。誰と?」
「…………」


 ほら見ろとばかりに鼻で笑ったオズに引っ張られて、私も歩き始めた。
 今首に巻き付かれたマフラーは、私が巻いていた。オズの匂いがする。ずっと、オズがつけていたのかな?
 暖かいオズの手に、私の指が絡みつかんでいた。
変なの。一番嫌いなやつが、始めてのクリスマスを過ごすやつだなんて。


「オズ」
「何?」
「ありがと」


 ちょっと、嬉しかったからオズの背にむかってそういったら、オズはこちらを向くことなく、進む速度を速める。


「君で遊びたかっただけだからね」
「と、じゃなくて、でかよ」
「当たり前じゃない。調子にのらないでくれるかな」
「別に、他の女でもよかったんじゃない? アンタ、顔はいいし、モテるんでしょ」
「頭軽い女多いからねー。ちょっと口説くだけですぐつられるよ。くすくす」


 こいつはやっぱり女の敵で屑なんだと思う。私も人殺しの屑だから、そう強くはいえないけど……こいつは殺しておいた方がいい気がする。世の中の女の子のために。


「……でも、夜美と一緒に過ごしたかったからね」
「私を駒にする気だな」
「あ、バレた?」
「わかるわ、クズベルト」
「ネーミングセンスないね。でも、誉め言葉として受け取っておくよ」


 そんな口喧嘩をしながら、オズは商店街まで私を引っ張っていく。人は私を見ては、どこかへ逃げていった。そんなことを構いもしないオズ。
 そして、商店街の広間で立ち止まった。


「……わぁ」


 赤、青、オレンジ、緑、ピンク、紫、虹色にぴかぴかひかるもみの木。その光は飾りに反射して、さらに光輝いていた。
 すごく、きれいと思えた。
 ずっと見ていたいと感じた。
 壊したいとしか願えなかった私が、この時を何時までも長く続いて欲しいと願えた。

 指と指が絡んだ手を引っ張られて、オズの胸に背中を預けてしまう。そして、そのまま後ろから抱き締められた。


「は!? オズ!?」
「さむい……」


 ぎゅうって私に抱きつくオズは、確かに私より冷たくなっていた。マフラーを私に渡したからだろう。
 そんなオズに、私は意を決して手を話してオズから離れた。


「は?」


 オズがあり得ないと言いたげにこちらを見下げようとしたが、首にマフラーを巻かれて意味を悟る。
 だけど不機嫌そうに頬を膨らませた。


「化け物臭がするマフラーなんていらないんだけど」
「え、これアンタのでしょ」
「いらない。夜美にあげるよ」


 さっさとマフラーを外しては、私の首に巻く。あったかいのだけれど、やっぱりオズは寒そうだった。


「……じゃあ、これはだめ?」


 私はできるだけオズに正面から近づいて、一緒になるようにマフラーを巻いた。
 意外に近い距離に、顔が熱くなる。
 だけど、右手はオズの手に捕らわれて、指がまた絡められる。また、私の腰にオズの手がそえられていた。


「ちょ、なにして、」
「もっと近くないと、さむいんだけど」
「え、ええ……?」
「そうそう、もっと近くに」


 腰を引き寄せられて、こつんとおでこ同士がぶつかった。どくどくする心臓に、息が出来なくなる。
 ニッと笑ったオズのまつげが鼻あたりに当たるのはすぐで、唇には何かが触れている。
 少し離れたオズは、意地悪そうに笑った。


「うん。暖かいね」




 思わずアッパーをくらわせ奴を病院送りにし、看病させられたのは、言うまでもない。





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