比例愛哀事情
何で、何時も大嫌いって言われ続けなきゃならないのか。
逆に、好きって言葉は言われ慣れていないと……むしろ言われたことがない。
人間ではないけど、バケモノだからこそ、一人が嫌で寂しくて辛い私だからこそ、アンタに好きって言われたかった。
嫌いって言われ続けていたら。それこそ悲しいもん。
「……オズっ!!」
私は今日もオズのところへと向かう。いちおう恋人同士なのに、オズはこちらの気配に気がついたら、あからさまに不機嫌な顔になってそっぽを向いた。
……本当に、付き合っているんだろうか。
ふとそんな不安がよぎり、重いため息をつく。校庭では桜の花が蕾になりつつあるのに、屋上はまだまだ冬みたいに冷たい風が地面を滑っていた。
「そんなため息つかないでくれる? こっちまで気分悪くなるんだけど。むしろ、僕と一緒にいるのが嫌とか? そうだよね。君はただ僕を殺したいから一緒に居るだけだもんね」
ケラケラと侮辱するような笑い声をあげるオズ。そうじゃない。本当は、できるだけ側にいたいだけなのに。私なんかと本気で言い合ってくれるオズと話したいだけなのに。
だけど、オズは私の顔が気に入らなかったのか、眉間にシワを寄せて手にとっていた本に視線を移した。
私は、本にも劣る存在なのか。でもオズが本とか小説を書く事が大好きだからなんにも言えない。ため息をつきたかったけど、オズが嫌がるから漏らすこともできない。
きっと、本音を言っても、甘えた言葉も、弱言でも、オズは嫌な顔をするんだろうな。結局私は、オズを笑顔にはできていなかった。
でも、そんな自分の汚い内面をさらけ出す必要はない。ようは、オズが少しでも幸せな気分になってくれたらいいんだ。
「お、ず。おっ、お弁当持ってきた……!」
声を振り絞って、私はオズの隣に星座にた。まだ本から視線を離さないオズに泣きそうになったけど、それさえ飲み込んで風呂敷を広げる。
風呂敷の中には、普通サイズのお弁当を入れてきた。木箱なのは、うちの家がそんな弁当箱をたくさんおいていただけなんだけど。その蓋を開くと、白いご飯に梅干、きんぴらごぼう、鮭の塩焼き、ブロッコリー、トマト、卵焼きとどこにでもある質素なレパートリーだ。だけど、普段カップラーメンとか栄養の偏るものしか食べないオズにはこれくらい質素で無難なものの方が栄養がとれる。
「ほら、食べて」
お弁当とお箸を差し出して、やっとオズは本から視線を外した。それはとても嬉しいのに、オズはこちらを絶対みようとしない。本に向けられていた視線はそのままお弁当へと移されていた。
自分が作ったものに視線を移されるのも、嬉しいといえば嬉しい。だけど、私も欲深くなったんだろう。その視線の先が私であればと願うほどわがままになっていた。
オズがお箸を手にとって、お弁当のオカズを口へと運んでいく。そういえば、前は作ったものでさえ食べてくれなかったな。ちょっとは進歩していたらいいんだけど。
私が作ったものがオズの胃袋へと流れていく。そう考えるとなんだかくすぐったい気持ちになって、思わずにやけそうになったけど、オズははじめてこちらに視線を向けた。
「そういうところも、大嫌いなんだよ」
オズの、冷たい視線が私に突き刺さる。
何で、何でなの? ただ、私はオズに好かれたいだけなのに。
何で、こう上手くいかないの?
喉からこみ上げるものを精一杯我慢するしか、私にはできなかった。
▽△
毎回、何で僕に好かれようとするのか全く分からない。
ねぇ。教えてよ。君は何が目的なの?
僕を殺したいだけでしょ? だから、付き合っているんでしょう?
ねぇ、何でこんなに近寄るのさ。弁当に毒を盛らないのさ。
何で、僕が弁当を食べるだけでそんな嬉しそうな顔をするのさ。大嫌いと言ったら、そんな悲しそうな顔をするのさ。
意味がわからない。ありえない。
君は無理やり笑顔を浮かべたり、本音を隠しているようで信用ならない。
ホントハ。
モットミテホシイボクダケヲオモッテ。
うそだね。
僕に関わるな。その挙動不審な態度が大っきらいだ。
僕に好かれようとする君なんて、大嫌いだ。
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