オズ夜美こらぼ番外編 | ナノ


的外れ変人ガール


 嫌い、でも好き。
 側に居たい。
 見ているだけで幸せだけど、それ以上に振り向いてもらえたら一番幸せだと思うんだ。

 机に顔を伏せて周りの声に耳を澄ませる。
 誰が誰を好きとか、嫌いとか。
 だったらどうするとか、しないとか。
 つまりのところ、女の子は恋をするとその相手によく見られたいためにがんばるものらしい。
 顔を起こして、自分の体を見下ろし、他の女の子に視線を向ける。
 身長も高くて、大人っぽい。お化粧している子もいる。私にはお化粧とか、そんな技術はなかった。そして胸もなかった色気もなかった。
 私にちょっとでも誇れるとこがあれば、他の子よりいいとこがあればアイツはこっちをみてくれるのかな。
 付き合いたいなんてことは言わない。ただ、一度でいい。たった一度、私を女としてみて、ドキドキしてほしい。
 ただ、それだけ。


「困ってるのです?」
「うわぁあ!? そ、空ちゃん!?」


 気がついたら、通学路だった。どうやらぼんやりしていたみたいで、いつの間にか帰宅していたみたい。隣にはよその学校で知り合った空って銀髪のかわいい女の子。性格破綻してるけど、金には真面目の子だった。


「こ、こまってって……」
「夜美の顔はそうねです。騙された男の顔のような顔をしているよです」
「だ、だまされ……?」
「私のATM、もとい下僕ねです」


 なんちゅーたとえだ。ドン引きしている私をよそに空ちゃんは淡々と、だけど交渉を持ちかけるように私に迫ってきた。物理的にも後ずさりしてしまった私に、空ちゃんはにやりと笑みを浮かべる。


「恋、してるんでしょです」
「こ、いっ!? いやいや私みたなバケモノが人間なんかにするわけないじゃん空ちゃん!!」
「人間が相手なんだです」
「う、あ」
「嘘、つけないみたいだねです」


 うなだれながら、地面にしゃがみ込んだ私を引きずって空ちゃんはカフェに乗り込む。絶対私のおごりだ。まぁお金には困ったことないからいいけどさぁ……。
 水だけもらったにも関わらず、それすら手につけない私に、カフェのテラスで紅茶とパンケーキをすする空ちゃんは訊ねる。


「で、どうしたいです?」
「……あの、言わなきゃだめ……?」
「はい」


 いい笑顔で、言われた。空ちゃんは美人さんなんだからそう堂々としてられるんだよなんて皮肉が通じる相手でもない。空ちゃんも私と同じバケモノのような人間なんだから。
 だから、空ちゃんだから言えることがある。人間とずれた生き物同士だから語れる話。


「好きな人を……ドキドキさせたいの」
「……それは、吊り橋効果かもです」
「え?」
「いえ、こちらの話だと思うです。それより、夜美ちゃんは女として男を奴隷にしたいということだよねです」
「そ、そこまで望んでない……」
「なら話は簡単だねです」


 びしっと空ちゃんが私を指差し、またあくどい笑みを浮かべる。


「夜美ちゃん改変プロジェクトです。三万で手をうつけどどうするです」



 私なんかがそんな空ちゃんの手を煩わせるなんてと言いかける前に、私たちのテラスに知らない男の人が二人近寄ってきた。男達は私や空ちゃんを舐めるようにみて、そして口を開く。


「かわいいね。俺たちも一緒でいい?」


 空ちゃんは何時もの真顔に一瞬なりかけたけど、すぐに営業スマイルに戻った。その笑顔に男子は二人共顔を赤らめている。そして伏せ目勝ちに妖艶に笑った空ちゃんが肘を机にたてて口元を隠しながら二人に答えた。


「いいよです。ちょうど、暇していたのでです」


 は?
 こ、ここは、断るとこ……? え?
 男の一人が空ちゃんの隣に、もうひとりが私の隣に座ってきた。予想外の行動に体が固まって、硬直する私に隣の男は朗らかに笑った。けど、その手はなんでふとももをなぞっているのですか。


「そんな緊張しなくていいよ。リラックスリラックス」
「そ、そらちゃあん……!!」
「男慣れするほうが魅力的になるです」


 そんなんするくらいなら、私は一生童○でいい。
 男の手を払ってから、席を立ってその場から逃げようとしている間に空ちゃんが二人を虜にしていた。そしてくすくすと笑いながら、空ちゃんは私の背にこう告げる。


「逃げてたら、大好きな人振り向かせられないよです」


 ふと、脳裏に浮かぶ憎たらしい笑顔。
 今まで何もしてこなかった。何もできなかった。だから、何をすればいいかわからなかった。
 これは、空ちゃんの方が正しいのかもしれない。
 おそるおそる振り返って、私は男に近づく。
 だけど、やっぱり胸につっかかりがあって、前に進めない。
 私は、頑張らなきゃならないんだ。
 そして、あいつに、オズとちょっとでも、一緒にいるために。


「な、何を……したらいいの……?」


 半泣きになりかけた目に自覚して、恥ずかしくなる。だけど、さっき私のふとももさわっていた男の喉がごくりとなって、こちらに手を伸ばしてきた。ぎゅっと目を閉じたら、頬に涙が伝う。だけど、男の手が届く前に後ろから誰かに抱きしめられていた。
 首に手を回して、私の肩から顔をだした男が忌々しげに口にする。


「こいつ、僕のなんだよね。だから、手ださないでくれる?」


 私に手を伸ばしかけていた男の顔が歪んだ。それは恐怖や動揺が含んだもので不思議で首を傾げたら、オズにうでを引かれて店の外までつれてこられる。
 私は、オズのなの? それは、どういう意味なの? 
 不思議な高揚に身を任せたまま、オズの背中を見ていたら、だれもいない公園でいきなり止まって、オズがこちらに振り返った。だけど、その時の顔はいろいろごちゃまぜになりすぎて、もう無に帰ったような真顔だった。


「……何、してたの?」
「何って……。空ちゃんに相談……」
「男を翻弄する技とか?」
「……あながち、間違っちゃいない」


 そんな答えを返したら、オズの目がかっとひらいて私の胸ぐらをつかんできた。オズは言いたい言葉があふれすぎていて、ぎゃくに何も言えないような顔をしている。だけど、怒っていることは伝わって。
 私は、オズを怒らせてしまったってわかったわけで。


「ご、めん……」


 謝ってしまった。


「何の、懺悔のわけ?」
「オズが、嫌がること……だったね。考慮しなかった……」
「はっ……僕が君のこと好きだとでも言ってるの? そんなわけないでしょ。これも、僕はただ君が勝手に幸せになるのが許せないだけだ」


 殺したいと、目で訴えられているようだった。
 ただ、オズに振り向いて欲しかっただけなのに、なんで私はこうなるんだろうね。
 いつも空回りしてばっかりだ。
 自分にほんと呆れて、バカバカしくて笑えた。だけど涙は止められなくて、オズはそれを軽蔑の眼差しをむけて罵倒する。


「泣けば解決するとでも思ってるわけ? ほんとうおめでたい頭してるよね」
「ほ、んと……馬鹿だよね……ただ、オズにどきどきして欲しかっただけなのに……何もかもうまくいかない……」
「……は?」
「オズは、私なんかにドキドキしたくないもんね……というより、私みたいなバケモンなんか関わりたくなかったはずなんだ……そんなこと気づかずに、女らしくなろうとして……ほんと、最低だ……」


 涙が止まらない。そんな自分でさえ、嫌になる。
 こんな醜い顔を見られたくなくて、顔を隠した瞬間に体が何かに包まれた。
 締め付けるような感覚で、身動きが全くとれなかった。


「……君、うざい」
「うざ……!?」
「信じられないよそんなこと。信じられるわけないでしょ……だけど、君なんか、女らしくなれるわけないのは確かだね」


 嘘だといいたくなる張本人からの宣言に心が折れそうになったとき、小さな声でつぶやかれたオズの言葉を聞き漏らすことはできなかった。


「君は、ずっとそのままでいいよ。そのほうが、いい」


 女らしくなったら、気持ち悪いったらありゃしないってイヤミをオプションにつけられた言葉に、また胸が躍りそうになった私は単純なんだろう。
 もし、腕が自由だったら、私も抱きしめ返していたんだろうな。そう予想しながら私は頬を緩めてオズの胸に顔をうずめた。




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