積極ガール
『今日の星座占いの一位はふたご座! 気になる男性が振り向いてくれるかも!? 積極的に出ると吉!』
朝から、また占いを見てしまった。
占いは確かにデマっぽいけど、見てしまったらなんとなく気にしてしまう。
気になる異性が絡むなら、期待しないはずがない。
そわそわとしながら、鏡の前でしばらく自分の顔を眺めてた。髪は切ってもすぐ伸びるからイメチェンとかできない。だけど、髪型を変えるくらいはできた。
……あいつと同じにして見てもいいかな。それで、お揃いとかさ……おちつけ。あの男がそう褒めてくれるわけないし、アイツがすぐ髪型変えて私が無駄にショック受けるだけだ。
しばらく鏡とにらめっこしたのち、髪の上の部分だけ後ろでまとめて、下の髪は伸ばしたままの髪型にしてみた。これで、少しは印象が違うだろうな。
かわいいって、思ってくれるかな……。
「……前髪も変えとこ」
何時もは、学ランまで羽織ってるけど、本日はお休みにして自宅に放置。
第一までボタンは止めて、リボンもつけてしっかりした印象になっていった。このままじゃ、硬いとか似合わないとか言われるかもとはらはしてきて、そのへんの女の子がしてるようなスカートの短さにしてみた。
「う……すーすーする……」
空気が太ももをすべって中にはいってくるも、今日くらいは普通の女子高生みたいに振舞ってみたかった。もしかしたら、振り向いてくれるかもしれない。そう期待しちゃうから。
そして、ふとアイツはお弁当は作らないで購買でパンを買ってたりしてたっけと思い出す。そう思い出したらすぐ決行。私でさえ、昼ご飯は食べないのに、ふたり分のお弁当を作ってカバンの中にしまった。
でも、私はやることなすこと全部裏目に出てしまう。
登校して、校門をくぐり抜け下駄箱を通り抜けて誰よりも早く教室に入ると。
オズが女とキスをしてた。
体が石の様に固まった私にオズは気づいてないのか女に「これで満足でしょ。さっさと散りなよ」とかほざきやがってた。
女が私に気づいて、真っ青になり教室から逃げようとした時にオズがこちらに顔を向けた。ちょっと驚いてたけど、目を細めてニヤニヤと笑い出す。
「おはよう夜美。何その恰好? イメチェンのつもりかもしれないけど、似合ってないよ」
ケラケラと笑うオズ。
朝から、やっぱりついてない。
オズの唇を見ると、あの唇と別の女が重なったんだと、頭に重りが乗ったみたいな感覚になる。
頑張っても、似合わないって本当、散々だよ。
だけど、ふと浮かんだ今朝の占い。デマだらけなのは目の前の男と同じなのに。
『積極的にでると吉!』
……ホント、単純なんだろうな。
何時もなら、さっきの子はオズが好きなのかとか、なら私はオズに近付かない方がいいのではないのかとか、私みたいな化物じゃ無理だとか、やっても無駄だし嫌な結果しかならないとか思う。 だけど、今日だけは期待したい。
期待をこじつけにして、アンタが欲しい。
「ねぇ、聞いてるのやごぶっ!?」
私は地面を蹴りあげてオズに体当たりした。机に体と頭をぶつけたオズは唸りながらこちらを睨み付けようとしたけど、その前に腹の上に股がって、右手でおでこを机に押し付けながら、唇を重ねた。
オズの体が大きく反応して、途端に腕を使って私から離れようとする。負けそうになったから、死んでも構わないくらいオズの顔を机に押しつけた。すこしミシミシいってるけど構うもんか。
唇だけは絶対離さないようにしてると、オズは諦めた様に力を抜いて、今度は私の腰と胸をスリスリと撫で上げ始めた。
恥ずかしいけど、触ってもらえるのは好きだったから、抵抗しない。
重なる唇は、さっきの女がキスしてた唇だ。それが、本当は何よりも嫌で嫌でたまらなくて、唇を挟むようにキスしたり、舌先でチロチロ舐めて女がキスしたことを忘れようとさせた。
少し唇を離すと、オズが少し息を荒くしてこちらを睨んでいた。
「ねぇ、僕を殺すつもりなの? それとも欲情してるだけ?」
ああ、これでも通じないのか。
溢れ出す思いは汚くて、重くて出したくないもの。
だけど、こちらを見てほしかった。化物として何時も見てくれるのは、私をありのままに見てくれるアンタに、たった一人の特別な女として振り向いて、こちらを見てほしかった。
「もっと、見てよ……」
「はぁ……?」
この気持ちを整理して、上手く伝える術なんて不器用で対人関係の経験が浅い私には出来ない。
だから、並べた。
「オズに見られたい。もっともっと。私だけ見てよ。化物じゃなくて、特別に見てよ」
「見てるじゃない。君は最高の化も」
「さっきの女の方が幸せになれるのはわかってるけど、そんなの納得できる訳がない。欲しいもんは欲しい」
「……さっきのって、君は一体何を言って……」
「どうしたら振り向いてくれる? 愛してくれる?」
「ちょ、」
「オズに必要にされたい。えっちだけじゃなくて、もっともっと必要にされたい」
「そ、そんなの風来にでも頼めば? はやく退いて。僕は用事が」
「逃がさない」
言葉のキャッチボールが出来てないのはなんとなく気がついている。だけど、思いはそう単純ではないし、溢れ出すままに言えばこうなるんだ。
オズはため息をついたあと、吐き捨てるように口にした。
「僕が好きみたいな口振りだけど、どうせ誰にも相手してくれないから僕なんでしょ?」
少しだけ、止まった。
確かに、そうなのかもしれない。
冷たくこちらを見上げるオズ。私は、私は……。
「相手してくれて、ちゃんと見てくれたオズが好きなんだよ……」
「ハッ。そんなの他のやつでもいいでしょ」
「居ない。そんなの」
「風来とか、シバとかでいいじゃない。もしかして汚れるとかそんなの? 僕は余り物で」
「何で、そんなこと言うの? 私をバカにしてもいいよ。なんで、なんで……自分を、そんな風に言うの?」
何時もそうだ。
私が素直になろうとすれば、自分の良いところなんて顔か権力か金だろって言ってくる。
そんなことないのに。オズにだって魅力はある。
「確かにうざいしムカつくしエロいし変態だしだけど……オズは、何だって確り現実を受け入れようとしてる。それを踏まえておちょくるからウザいけど私にだって悪口言える根性もあるし、変に計算高い」
「……それ、褒めてないでしょ」
「わかんない」
「わかんないって、あのね」
「でも、欠点があっても好きなんだよ。欠点を無視しても……違う。私は、欠点ごとオズが大好きなんだよ」
ヤバい、泣けてきた。
結局、当初の目的である振り向かせることは無理だった。いつの間にか、オズに愛されてもおかしくないって伝えようとしてた。
おでこから手を退けるけど、オズは腕で顔を隠してた。
「……何で、顔隠してんの?」
「うるさいどっかいけ化物」
「腕どけろ」
「止めろド変態!! あ、おい!!」
腕ぢ、腕力で退けた。そして視界に映ったのは、顔も目も真っ赤なオズ。心なしか、目が潤んでいた。
「み、見るなどっか行け!!」
悪態をつくオズだけど、それが本当に可愛くてどうしようもなくて……。
「オズ、たぶんむらっとした」
「……はっ!?」
「ちゅーしたい。いやもっと抱っこしよ。ね、オズ」
「う、うわぁああああああ!! 身体を引っ付けるなこすりつけるな変態痴女悪魔変態女!!」
「オズ、こっち見て」
「発情期女に見せる顔なんてない!!」
「……む、じゃあいいもん。こっち見るまで好きにする」
「止めろ!!」
「好きな人に見てもらいたいって気持ちはおかしくないもうぎゃ!?」
オズは私を突き飛ばして、慌てて廊下を駆け出していった。
なるほど、これは鬼ごっこかな。
そして今朝の占いを思い出す。そして、やり方と解釈の違いに納得した。だから、振り向いて貰えなかったんだ。
「捕まえて首を固定すればこっちを見るようになる」
やっぱり、私は相変わらずどうしようもない私だ。ロクなことはしない。
だけど、今日は期待して追いかけるよ。
真っ赤なアンタの顔がもう一度みたいから。
▽おまけ△
「オズ、あーん」
「止めろ……」
「え、でもご飯食べられないけど」
「じゃあ、縄をほどいてくれない?」
「オズ逃げるからヤダ」
「……じゃあ、膝に乗るの止めてくれない?」
「オズ可愛いからヤダ」
「お前あとで覚えてろよ」
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