必勝お弁当法
「人間って、それで生きていけるの?」
ある日の昼食時。何時も通り教室から逃げるように屋上に来た私は持参した牛乳を飲みながら、何故か屋上に来ているオズベルトが手にするカップ麺を指差した。
「化物の夜美に分かるわけないよね。普通生きていける訳ないじゃん」
「は? でもお前何時もそれじゃん」
「僕だからねー。こんなんで死ぬわけないし、時間をとられたくもないんだよ」
矛盾した回答で見下すオズベルトは、よく分からない本に視線を移した。いや、本に興味対象向けないと私はストレスで一緒に居られないとは思うけど。
……つまり、オズは弁当を作る暇も勿体ないから、カップ麺にしていると。栄養は偏るけど、オズは死なない?
ジッと目をこらして、オズを観察するけど、やっぱり簡単に死にそうだ。
オズは私の視線に気付いたようで顔を上げてにやにやしだす。
「何? 僕に見とれてたの?」
「は、は!? 何言ってんのこのナルシスト!」
「こんなナルシストが好きな夜美はなんなのかなぁ? ド変態?」
「ち、違う!」
間を詰めるオズから逃げる様に立ち上がった。オズはそんな私の反応を楽しんでいるみたいで、余計に癪にさわった。
「ふぅん。体なら完全に分かってるのにね」
「も、もう帰る!!」
「くすくす。ガキみたいだねぇ」
「うるさい!」
「大人の女にしてほしいなら、すぐ言いなよ」
「黙れ変態!!」
アイツに背を向けて私は階段を下っていく。
悔しい。何で何時もアイツのペースなんだろう。アイツばっかり余裕で凄いムカつく!
すれ違う生徒にびびられながら、足音をたてて教室に戻ろうとすると、窓から校舎の庭にあるベンチに男女が座っているのが見えた。つか真也と沙弥だ。
沙弥が真也の口に、弁当のオカズを運んでる。真也がそれを口にしたら、直ぐ様沙弥に抱きついて沙弥がはがすの繰り返し。
……愛されてるなぁ。あれくらい、たらしこみた……。
「……そうだ」
オズをあっと言わせる方法を思いついた私は、授業中もその策を練った。
やっぱり、好きと言われたいし、照れさせたいし、夢中にさせたい。
それぐらい、許される筈なんだ。
▽△
「……私は、何をしているんだ……!!」
昼前の授業をサボってまで屋上でスタンバイしてる自分に心底呆れる。オズはまだ居ないし、今日来るとも限らない。
だけど、緊張して授業どころではなかったのは確かだった。美代先生だから、多少は見逃してくれるだろう。授業についての安心は出来ても、オズの反応が怖くてバクバクと心臓が高鳴っていた。
キィと屋上の扉が開いた音がして、顔を向けたらオズが目を丸めてこっちに視線を向けていた。
「へぇ、今日はサボりなの?」
「…………」
「風来先生に嫌われるーとか言い出しそうなのに。本当に好きだよね、あの堅物の何処がいいんだか。僕はあ」
「ん!」
私は立ち上がって、オズの胸に重箱の入った風呂敷を押し付けた。オズは、一瞬固まって、それを手にとる。
「……なに、これ?」
「お、お弁当」
「は!? 夜美の? え。これ、僕に? え……?」
「そう」
簡単な単語しか返せない。
オズを負かせたいだけなのに、ここで挫けてどうするんだ私は。
歯を食いしばって、オズを無理矢理座らせた。
何が起こっているのか分からないオズから、風呂敷を奪って中から重箱を取り出し、広げた。
一段目にはおにぎり、二段目にはおかず、三段目にはデザート。
「……多っ」
「弟に、作る分量だから、普通がわかんなくて」
「君は僕を肥やしたいつもりな……」
お箸ではなくて、フォークを握りしめて二段目のハンバーグを一口サイズに切って、オズの口元付近に近づけた。
「え?」
「あ、あーん」
顔が、まともに見れない。
だけど、恐る恐る口をあけたオズの口に私自身がハンバーグを入れた。
パクリと食べた口から引き抜いたフォークから、もぐもぐとハンバーグを噛むオズに視線を移したら、オズの顔が真っ赤だった。
そして、じとりとこちらに視線を向けたオズがにやりと笑って私を押し倒す。
「お礼しなくちゃねぇ、夜美」
形成逆転。
だけど、一瞬だけ見れた勝利。
私はオズを見上げてざまぁみろと笑ったら、その言葉ごと黙らされてしまった。
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