オズ夜美こらぼ番外編 | ナノ


忘却リアリティー

 この世で一人しかいない、血を分けた弟が行方不明となった。
 母は少し痛々しく笑う様になり、父さん複雑そうな表情を浮かべるようになった。
 そういえば、最近真也の親友が私に訊ねに来たっけ。凄く、気が強い子だったなぁ。

 私と言えば、某暗殺組織で真也を探しながら人殺しを続けていた。クロウに土下座して、やっと彼に手伝って貰うことが出来たけど……。金を積んでも、情報を売ってこないとか。

 たかが、真也の死にそこまで?
 ちっぽけな存在だろう。だけど、私にとってみれば、彼は私の分身で、見ていて安心できたんだ。
 だから、亡骸でも探しだしたかった。あわよくば、生きていてほしい。

 仕事でイタリアへ来国した私はぼんやりとそんなことを考えながら、観光を続けていた。
 イタリアといったら、高校時代の憎きあいつの母国だっけ? 曖昧だ……。
 高校時代になにかと私にちょっかいをだす男だった。私、というよりは他人を挑発したりすることが大好きなやつだったけど。
 でも、なんとなく。あの時代が一番楽しかったような気がする。

 そんなとき、クロウに無理矢理持てと言われた携帯から音が鳴り響いた。仕事かなって画面を見ると、どうも非通知なようで。
 嫌な予感がして、着信を押そうとしたら何かがその携帯を弾いた。
 地面に落下したそれは、誰かの足で画面にヒビがはいる。かかとでぐりぐりして、私の携帯をぶっ壊していた。
 その携帯を踏む男の足を伝い、上を見上げた。


「久しぶり、夜美」


 にやにやといやらしい笑みを浮かべるのは相変わらずで、以前より格段に背が伸びて首が痛かった。
 昔よりまたかっこよくなっているのに、今は苛立ちしか感じられない。


「てめぇ……オズか……!!」
「お、凄い凄い。夜美の低脳でも僕のこと覚えていたんだねぇ。それとも、僕のこと好きなの? ごめん。丁重にお断りするよ」
「こっちは全力でお断りするわこのゲス男! わ、私の携帯……!」
「えー?夜美の携帯だったんだ。夜美いたいなボッチの世界チャンピオンに友達いるなんて思わなくて、ごめんねー」
「こ、んの……!!」

 今すぐ殺してやろうかと企んだが、クロウにむやみに人を殺したら足元をすくわれると注意されていた。あの男も気にくわないが、今、足元をすくわれるわけにいかない。
 弟を探すために、絶対に。


「う、うう……!」
「あれー? 反応なし? 認めてるの?」


 私の顔の前には、オズの顔がある。鼻先が触れそうな距離だが、私は耐え……ることはできず顔面を殴った。


「いったー! 顔に傷がついたらどうするのさ!」
「ざまぁー! 人を挑発するからこうなるんだよご愁傷さまー! なんなら全世界の女子の為に今殺してやろうか!?」
「残念だけど、普通の女子は僕が死んだら悲しむよ」
「私が普通じゃないってかこのナルシスト!」
「顔が良いのは知ってるからね。そのお陰でバカな女がつれるよ、化け物」
「この外道が!」


 あれ、なんだろう。
 こんなに声をあげたのは、久しぶりだなぁ。
 悩みとか、そんなごちゃごちゃしたものはどこかいって、ただオズと口喧嘩するのは楽で楽しかった。
 ……楽しい?


「夜美みたいな化け物に言われたくないね」
「……ははっ」
「……は? なに笑ってるの? とうとう頭いかれた?」
「私も、相当参ってるみたいだ……あんたといんの、楽しいよ」


 かなり、神経を使っていたんだろう。根つめていたんだろう。
 オズは珍しく、真面目な顔をしていた。そんな顔もできるなら、モテるはずだよね。
 何故か、胸に黒いものがとぐろしたような感覚になる。多分自己嫌悪だろうと自己完結して、自重気味に笑った。


「じゃあ、発散させたら?」
「え? うわっ!?」


 オズが私の腕をつかんで、何処かへと連れていった。街の路地裏は鬱蒼としていて少し不気味。
 オズが私を壁に押し付けたから、何のつもりだと口にする前に、唇に何かを押し付けられた。
 ああ、私、オズにキスされてる。
 かっと熱が顔にたまって、オズを引き離したら、今度は腰を撫でられ、それを払おうとしたらバランスを崩して壁に頭を殴打して、壁に背を預けるように尻餅をついてしまった。頭をおさえてもだえてる間に、オズは私が逃げられないように壁に追い込む。


「な、何考えてんの……!?」
「日頃の鬱憤はこれではらすのが一番なんだって」
「う、嘘だ。それはお前の場合だろ!」
「うん。それをオススメしてるんだよ」
「強制的にな!」
「それに……」


 すっと伸びた手が、首筋を撫で上げた。冷たくて、ぶるりと体が震える。
 そして、やっとオズの目を見てしまい、完全に私は体の主導権を失ってしまった。
 オズの目は、何を映していたのかわからない。怒り、憎しみ、そしてそれに対する何かが渦巻いていた。


「君で遊ぶのは、僕だけだから」
「は……?」
「黙ってなよ。全部、忘れさせてあげるから」


 私をそっと抱き締めたオズ。それは、ただ私に抵抗させないための策略だったんだろうか。
 もう、それもどうでもいい。
 全てを忘れられるなら、どうでもよかった。



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