夢中浮遊
夢を見ているみたいだった。
ほぼ裸体のような恰好をする痴女が僕に触れようとしていた夢。あまり顔は覚えていなかったけれど、黒髪は艶やかで、対称的に雪のように白くなだらかな肌は魅力的だった。
誘われたんだから、のっただけだ。なのにその女は顔を左右に振る。それが腹立たしくて、ぷくっと膨らんだ赤い唇にかぶりついて、そのまま勢いでシようとしていた。だけど、アイツは僕を突き飛ばして海の方へ向かっていく。待てと言っても、女は言うことを聞かずに、魚のような下半身を跳ねさせて海の中へ消えた。そこで、僕は気を失った。
そんな夢。
目を覚ましたら見たことはない布団の中に埋まっていた。何故か上半身は裸で、隣にクリーム色の髪の女が眠っていた。
しかも裸で。
「…………」
……僕は、昨日何していたんだ?
確か、僕の誕生日パーティという名目で船上でパーティをして……嵐にあって……それで……。
「ふ、ぁあ……」
隣の女が、あくびと小さな伸びをして上半身を起こした。そして、寝ぼけた顔で僕に顔を向けたかと思えば、目を輝かせる。
「意識が戻られたのですね!」
ああ、なるほど。
僕はこの女に助けられたのか……。
女に助けられるなんて屈辱的だけど、女の笑顔はバカっぽくて、使えそうな気がする。
だけど、建前上でも恩人として扱った方がいいだろう。
「お、オズベルト様っ、痛いところはありませんか!?」
「……何で名前しってるの?」
「それは、オズベルト様だからです!! ぱ、パーティでもよくお目にかかりますし……か、カッコイイですし……」
頬を赤く染めてそっぽを向く女に無垢なものを感じた。コイツは僕に惚れている。それだけで勝ちのようなものだろう。
そこで女が自分が裸体だったことを思い出して、布団に隠れた。丸くなった毛布に顔だけだして、真っ赤な顔で絞りきるような声で答える。
「な、波に打ち付けられていたのでお体が冷えてると思って……お体をあたためようと、あのっ……」
本物のバカみたいだ。
こんな女ほどそれなりに扱っておけば満足する楽な生き物だ。
真っ赤な顔をした女を組み敷くと、期待していたんだろうね。抵抗なんてしないんだ。
あの夢の女は、抵抗してきたな……。
「名前」
「……え?」
「名前を教えてもらってもいい?」
優しく語りかければ、夢の世界に浸るような顔をする女が、告げる。
「ベリンダ、ベッレッツァ……」
ベッレッツァ。僕より下の身分だな。また扱いやすい。
こんな女を懐に置く方がまだ楽かもしれない。助けられて金で積む方法もあるけど、ある程度世間体もあるしね。
「ベリンダ。じゃあ僕を温めてよ」
だけど、ベリンダの唇にキスできなかった。
あの夢の中で重ねた唇が、夢のくせして熱かったんだ。
「はじめて、だったのになぁ」
泡になって消えていった娘の言葉が、海上へと浮かび、弾けた。
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