消えた幽霊
シバの作った穴のせいで夜美がいなくなった。
あの日からすでに数週間たっていた。
すごく困るんですけど
じゃないと今までやってきた苦労が無駄になる。
風来や真也を殺したっていうのに・・・これじゃぁ意味がないじゃないか。
僕以外をみないように夜美の周りの人間を殺した。
夜美に憑りつくことなんて容易かった。
ちょっと壊れてしまったけどまぁ大丈夫だった。
むしろ好都合。
夜美を縛るためにやったのにその肝心な相手がいないと意味がない。
原因であるシバを睨んだ。
破壊神のシバがギャンギャンと吠える。
「お前のせいだぞ!!」
「僕のせいにしないでよ。 自分のやったことを僕になすりつけるとか終わってる。
何?神様って皆こうも傲慢なの?人のせいにするなよ」
「・・・・!!!お、お前と言うやつは・・・!!!」
「あーあ、つまらない。 夜美早くかえってこないかなー」
「美夜になにかしてみろ!! お前を消してやるからな!!」
「だったらジオを消した方がいいんじゃないのー? 僕らがこうして現代に漂っているのも全部ジオがやってるんだからさ。 無意識って怖いよね?
村人の呪いかはたまた人柱が成功したのか・・・あはははっ!」
「自分の息子だろ?!」
「息子だからって愛情をあげるだなんて誰が決めた?
嫌いな人にそっくりな子供なんていらないよ。 勝手に生まれてきただけだ
世話しただけありがたいと思えよ」
屋敷の一部が壊れる音がした。
シバと僕がその方向をみる。
先ほどからずっと傍観していた歩実が呟いた。
「どうやら戻ってきたみたいですね・・・・最悪な形で」
その言葉がすぐにわかった。
夜実が壊れている。
精神が完全に崩壊していた。
試しにシバや僕が話しかけても夜美はずっと泣いていた。
そしてしきりに僕の名前を言っている。
「・・・・!!どういうことだ!?」
「存在を消滅されて、別世界に取り込まれていたみたいですね。
あちらで何かあったのでしょう・・・・」
「別世界って・・・?」
「さぁ・・・オズベルトさん何かしりませんか?」
じっと僕を睨む歩実。
そんなの知るわけない。
夜美を見ながら知らないとつぶやく。
数日たっても夜美の精神がもとに戻ることはなかった。
ずっと僕の書斎でうずくまり泣いていた。
つまらない・・・・
振れようとするがなぜか触れなかった。
屋敷の中にいるのに触れなかった。
手をかざし自分自身を見る・・・ためしに他の物を持ってみる。
持つことができた。
でも彼女に触ることができなかった。
夜美は化け物だから御飯を食べなくても死ぬことはなかった。
だからか、ずっとずっと泣いていた。
僕が愛用していた万年筆を握りしめ泣いていた。
「夜美こっちむけよ・・・無視しないで」
僕の声も聞こえずずっと泣いている。
「・・・・オズ、オズ、死なないで、いなくならないで」
なら、こっち向けよ。
なんで泣いてるんだよ。
意味が分からない。
それから数年たった。
何百年も形を保っていた万年筆もさすがにガタがきたのだろう。
ぴしぴしと今にも壊れそうだった。
今日も夜美は哭いていた。
動物のように鳴いていた。
シバも屋敷に来ることをやめ、今は僕しか彼女に会っていない。
ピシリと万年筆がひび割れるたびに頭がいたくなる。
それはそうだ僕にとってそれが命のようなものだから。
今日は何をしよう?
どうせ夜美はこちらに気づかない。
でも見とかないと不安で仕方がない。
ならばと思い1日中本を読んで過ごすことが多くなった。
古ぼけた日記を見つける・・・名前はカインと書いてあった。
「・・・うわっなにこれ狂ってるじゃん・・・うわー読むのやめよ・・・ん?」
ぺらぺらと頁をめくるたび、おかしくなっていってる。
最終的自分の名前も何もかも忘れてしまっているらしかった。
あきたので本を閉じようとする。
すると本から何かが落ちてきた。
栞だった。
押し花を栞にしたのだろう。かすかに花の匂いがした。
「・・・・黄色い花・・・・・」
栞がはさまれていたページをみた。
幼い字が書かれている。
『今日は赤い目と黒い髪のおじちゃんが迎えに来た。
オズベルトさんって言うんだって。』
「・・・・・は?」
思わず目が点になる。
赤い目・・・?僕の目は緑だ。
鏡を見るも赤目にはほど遠い目の色をしていた。
赤い目って言ったら・・・
「・・・兄さん?でも違う・・・だって兄さんは僕が殺した。
アニタを殺した後一緒に殺した・・・・は?」
意味が分からなくなり他のページをめくる。
僕の名前はそれ以上なくそのかわり別の人間の名前が書いてある。
「・・・・ヤミ・・・?」
目の前の少女を見ながら言う。
ずきっと頭が割れるようにいたい。
「あ“っ・・・・・いたっ」
ガシャンと完全に万年筆が壊れる音がした。
同時に僕の存在は綺麗さっぱり無くなると焦る。
跡形もなく消えるそう思ってとっさに夜美を見た。
ぽたぽたと涙を流した彼女はただ茫然と空も見えない地下室の中、空を見上げていたのだ。
それが僕がみた最後の彼女。
僕は思わず苦笑した。
「馬鹿だなぁ・・・」
それすらも彼女には届かなかった。
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