疑惑
「おや? 警察の方が我が屋敷に何か用ですか?」
屋敷につくと真っ先に出迎えてくれたのはジャックだった。
真っ黒いマントに身を包んで怪しげにほほ笑んでいた。
カインは屋敷に着くとすぐさま自分の部屋へと入っていった。
「こんばんは、ジャックさん」
「こんばんは」
「は、はじめまして!伯爵・・・あ、今は違うんでしたジャック様。」
「立ちながら会話するほど短い訪問というわけではないでしょう?
応接室に案内します。 こちらへどうぞ、ヤミ飲み物頼む」
ふいに話しかけられ、びくっと肩が動いた。
そして頼まれたと認識するのに数秒かかり、急いで調理場へと走った。
紅茶を人数分用意して応接間へとこぼさないように歩く。
ドアの所でぴたっと立ち止まる。
声が聞こえたからだ
「それで・・・?被害者が血文字で私の名前を書いた。
それだけの理由でわざわざここに来たんですか?」
「・・・・ダイイング・メッセージととらえた方が無難だと思います」
「犯人がわざと書いたと思わないのでしょうか?」
「そうでしょうか?」
「それに、ジャックと書いていただけで私を犯人扱いするなんて心外ですね」
「すいません! でも他のジャックさんと言う人に聞き込みをしましたし
ジャック様も例外というわけには・・・」
「・・・ならいいですけど」
「もう一つ問題があります。 被害者付近に葡萄と思われるものが検出されました」
「・・・葡萄」
「殺された被害者はどれも貧しい者ばかりで到底葡萄なんて高価な物
買えないんですよ。 伯爵であるあなたとかなら例外ですが・・・」
「・・・・・はぁ、まぁ疑わるのは仕方ないですですが
わかりました。 後程・・・・早ければ明日にでも警察に同行しましょう 」
「ご理解ありがとうございます」
警官がドアをあける。
思わずぶつかりそうになって一歩後ろに下がった。
「失礼・・・」
「お茶持ってきたんですけど・・・」
「あ、ありがとうございました。 でも僕たちもう帰るので・・・!ではまた明日」
軽く介錯をして2人の警官は屋敷を後にした。
ジャックが応接室から出てくる、私に気が付き紅茶の入ったコップを一つとった。
「行儀悪いとか言うなよ? 残すよりはましだろ」
そう言ってぐいっと紅茶を飲み干した。
優雅のかけらもなかったけど
ジャックなりの優しさだとわかって小さく笑った。
その晩、ジャックが部屋から出る。
手には白く光るナイフを握っていた。
黒いコートを羽織り外へと出る。
ザーザーと雨が降っていた。
傘を差さずに浴びるようにそのまま歩いていく。
そして三日月のような口がゆっくり開く。
笑い声はもはや獣のようだった。
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