切り裂き魔
屋敷に戻るとジャックが怪訝そうにこちらを睨んでいた。
小さく舌打ちをうつと早足でオズへと近づく。
「お前・・・・またやったのか!!?」
「あーぁーあー!何もきこえないー。しらなーい。」
耳をふさぎオズが喚く。
ジャックはガキかとつぶやいてゲンコツをオズへと繰り出した。
「・・・・・っつ!!?」
「・・・・・うわぁ・・・・」
すると先ほどの余裕顔がどこにいったのか
涙を浮かべて地面へと倒れ頭に手をあて呻いている。
相当痛いのだろう。
私でもあそこまでしない。
茫然とそれをみているとジャックが私に話しかけてきた。
「弟が何かしたんだろ?」
「え?・・・」
「だからその・・・っ・・・・あ、朝帰りだろ!!石鹸の匂いがする」
顔に手を当ててようやく言い切る。
顔が耳まで真っ赤だった。
「兄さんまっか・・・!!!!あはははは」
「うるさい!マセガキ」
「あ、腹に蹴りやめて・・・今ちょっときつい」
「早く着替えろ!・・・たくっ・・・・」
オズを追い出し、困ったようにため息をつくジャック。
私は一体どうしたらいいんだろう・・・・
朝帰りと言えば、朝帰りなんだけど・・・これは意味が違う。
死んでいた私を連れ戻しにきてました・・・・だなんて到底言えない。
「・・・あーえっと・・・」
「あ・・・夜美です」
「ヤミ・・・・?そうか」
イントネーションがちょっと違うけど訂正するのも、面倒だからそのままにした。
ジャックは口に手を当てヤミ、ヤミと名前をつぶやいている。
名前覚えるの苦手なんだ。
そう言って照れくさそうに笑った。
「いまだにメイドが何人いるか覚えてねぇ・・・新入りか?」
「昨日も会いましたけど?」
「・・・昨日は、部屋でずっと寝てたけどな」
不思議そうにジャックが首をかしげる。
昨日の事覚えてないんだ・・・・・
ぎゅっと服の裾を握りしめた。
「まぁ、とにかく無事でよかったよ」
「・・・え?何で・・・・ですか?」
敬語はいらない。オズにも敬語じゃねぇよな?
ぶっきらぼうにそう言ってジャックが部屋の奥から新聞を取り出した。
記事一面には『切り裂き魔ふたたび』と書かれている。
「・・・・これ何?」
「知らねぇのか? 最近路地裏に女を連れ込んでナイフで殺す殺人鬼の事だよ。
未だ犯人つかめてないらしぃからな・・・・」
「・・・・そうなんだ」
「主に女性、幼女を狙うんだそうだ。凶器はナイフ・・・あとは言わない。
気になったらこれ読めばいい。だけど読んで吐くなよ?」
それほど残虐な行為が書かれているんだろうか。
ゆっくりと新聞を受け取った。
頭が真っ白になる。
殺された瞬間が脳裏に浮かぶ。
真っ黒な髪、真っ赤な目、大きな口・・・・
光るナイフ。
そして脳裏に残っている声。
ねぇ・・・それはあんたの演技なの?
目の前の殺人鬼を見ながらつぶやいた。
「早く逮捕されるといいね」
ジャックは目を閉じてゆっくりつぶやいた。
「あぁ・・・・いずれ捕まるさ」
それはどういう意味なのか当時の私にはわからなかった。
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