ヒロ様とコラボリレー | ナノ


考察、登場人物


「いやあ。人間の中に紛れ込もうとする芸当は心底笑えますねぇ。そしてバケモノがこのような仕打ちをうけることにもお腹がよじれそうになっちゃいますよ!」
「…………」


 学校に登校して、下駄箱を開くと上履きがなかった。それだけじゃなくて猫の死骸が入っていた。それをぼんやりと眺めていたら、ケラケラと笑いながら歩み寄ってた男がニヤニヤと私を見下ろす。
 名前は偽っているらしいけど、安藤流(あんどう りゅう)と呼ばれている。日本人にありふれた黒い髪に黒い瞳。どこにでもいそうな平凡な容姿だった。身長が高めなのは他人を見下すためとか。ああ、この目の前の男は姿を変えられるらしいんだ。
 そんな男がなんで私に関わって来たかというと、私を利用するためらしい。単刀直入に仲間というか、手を組まないかって言われた時は驚いたもんだ。
 もっとも、バケモノなんかと手を組むつもりなんてないけど。なにをするかわからないままだしね。


「昨日、オズベルトに何かやらかしたようですね。あの優等生に気持ち悪いと吐き捨てるとは興味深い。どこが気持ち悪かったのです?」
「……お前は、わからないのか?」


 安藤は少し動きが止まった。どうやら言われたくないセリフだったらしい。
 その私の質問を消すように、べらべらと安藤は語りだす。


「わからないとは心外ですね! わからないかもしれないし、わかってるかもしれない。真実も嘘も星どころか人間の数以上にあるのですよ平城夜美。私はその一部の答えを聞きたいと思っているだけです。ほら、言いなさい。どこが気持ち悪かったのです?」


 こうもまくし立てられると気分がいいものではない。でも、安藤の質問に答えないとこいつがさっさとどっかに行ってくれないことは理解していた。
 だからこそ、私は思ったまま、感じたままのことを安藤に伝える。


「何か、アイツ、変」
「変? バケモノ視点で言われても……」
「違う。アイツ全部考えて動いてる。動きが全部反射じゃない」


 どんな動きでさえ、本性みたいな面がでてくるはずだ。だけど、アイツはそれが一切でてきていない。まるで……映画とかに出てくる俳優のような、そんな感じがした。
 それを毎回毎回しているから、ここが本当に現実かすらわからなくなる。それが気持ち悪かった。
 安藤はそれを耳にして、少し考える素振りを見せた。私なんかと絡むから、完全に浮いてしまっているヤツはにんまりと笑みを浮かべる。


「演技、ですね」
「……」
「なるほどなるほど。確かにお金持ちで性格も顔もいい登場人物は嫌われないでしょうねぇ。ふふ。ならあの男の本性が気になるところです」
「別にそんなのどうでもいいじゃん」
「どうでもいいことに何かがあることはしょっちゅうありますがね」


 ああ、コイツと話すとなんか気分がわるい。
 猫の死骸を抱き抱えて靴のまま、学校を出て行くと安藤はもう帰るのとわざとらしく聞いてくる。私は振り返ることなく、安藤に伝える。


「埋めてくるんだよ」
「既に死んでいるのに? 破壊のバケモノらしくないですね」
「……私らしいって、なんだよ」
「……はっ。それはもっともでした」


 安藤の戯言はそこでおわった。
 学校から離れていって、川辺あたりに穴を掘って猫を寝かせる。そうすると、一定の距離から私に近づかない猫たちがその猫を心配そうに眺めている。
 丁寧に埋めてやって離れると、猫は鳴きながらその穴へと向かい、また掘り返そうとしている。きっと、知り合いだったんだろう。
 ただ淡々と、仕事のようにそれをこなした私はその場を離れて、また学校へと向かう。
 淡々と、日常が流れていくと思っていた。


「一年三組の……平城夜美だっけ?」


 どこかで、歯車が狂ってしまったんだろう。
 機械が悲鳴をあげているのに、私は作業みたいに進んでいく。
 目の前に現れたピエロのような男を睨みつけながら、私はそれでも一人で生きていくと思っていた。






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