ヒロ様とコラボリレー | ナノ


夜露死苦ネ


「……? 何、これ」


 正直、あの女豹みたいな女の言うことなんて聞きたくなかった。何が私を楽しませろだ。勝手にひとりで楽しんでろ。
 風来さんに怒られるかな。だけどこの異様な入学式には参加したくはなかった。まぁ、勝手に皆楽しむだろう。私なんかが参加しても、死者が出るだけだ。
 この騒動を終わらせたい気持ちもあるけど、下駄箱の可愛らしい手紙をとりだして、中身を見た瞬間私は口角をゆっくりと緩ませて、その手紙を……。
 食べてしまった。


▽△


「じゃあ、外にでた一年A組のやつらしゅうごーう。全員私のために働け」
「何て横暴な!! 唯! 独裁者でももっと寛容だよ!?」


 何でこうなったのか。私、田村沙弥は目の前にいる鷹野唯に目力で強制的に入学式サプライズに参加させられた。私以外には普通の男子高校生。可愛い女の子いっぱいいたなぁとのんきに笑っているところをみると、状況を把握していない鈍感なやつなんだろう。で、童顔男子高校生+マフラーをつけた子。鷹野さんの独裁国家につっこみをいれつつもビクビクと体を震わせている。なんかヒヨコみたいな男の子だ。そして、身長が高い黒髪の男に表情らしいものはない。しかしどこか気だるそうではある。今朝方私を見て逃げた茶髪の男の子はこちらを三秒に一回は見てきていた。最後にどこからどうみても女の子なのに男物の制服を着ている子がいる。
 いまのメンツが、鷹野独裁国家に強制連行されたメンツだった。


「……まぁ、お互い自己紹介くらいしておこうか。相手の素性を知らない限りは、信頼もチームワークも生まれないでしょ」
「まぁそうだね。しらないやつが二人いるみたいだし。私は鷹野唯。好きなものはゲーム、トランプ、ギャンブル、株、宝くじとか。アイスとかケーキ。料理つくるのも好きだよ。今度つくってあげる。そして嫌いなものは市ノ瀬を先頭とした変態どもと私を邪魔するやつら。嫌いなモノには容赦しないのでヨロシクネ」


 信頼より疑心が生み出しそうな自己紹介だった。どんどん物騒になるし、最後の一言は威圧的だった。あの言葉の裏には念押しの意味が含まれてそうだな。
 なんでついてきちゃったかなぁと地面に視線を向けそうになったら、邪魔なやつが嫌いなのは僕もだよと美少年が腕を組みながら鷹野に顔をむける。


「僕は早乙女春樹。嫌いなものは鷹野と同じ僕を邪魔するものと、うじうじする人間。好きなものはタイムセール。よろしくなんかしなくてもいいけど、君たちと一緒にいるほうが生き残りそうだからね。よろしく」


 力強い瞳でそう言い切る早乙女。しかし好きなものがタイムセールってまた邪魔者嫌いとギャップがあるな。というか、ひょろそうだからこの入学式で生き残れるとは思わないんだけど。何が彼をそうさせたのか気になるところではある。


「え、ええと。俺は柴谷翼。好きなものは剣道……と脅さなくていじめなくて怖くない優しい人がすきです……ヨロシクネ」
「俺は川村! 今彼女募集中だから、可愛い女の子いたら教えてくれよな!」


 体を小刻みに震わせながらそう自己紹介した彼の目に光は宿ってなかった。鷹野さんとのやり取りをみるあたり、こんなコントを何回も繰り返しているんだろう。
 それに対して川村という男はニコニコと笑みを浮かべている上に女の紹介までおねだりしてきた。きっと適応性と危険回避能力に長けているんだろう。逆に柴谷にはそれがないからああも苦労顔をしているんだろう。


「……平城真也。好きなものは、おにぎり……よろしく」


 先ほどからこちらをみたり見なかったりを繰り返す平城の自己紹介は素っ気ないものだった。だけど、入学そうそう姉の噂がああも悪い方向で広まっているとあまり目立ちたくないのかもしれない。身長が一般よりも大きいし、顔もいいのでべつの意味では目立ちそうだから、彼の願望はかなわないと思う。


「アルベルト・ヴェンチェンツォだ。動物や甘いものじゅ……が好きだ。嫌いなものは唯と早乙女とほぼ同じだな。あとは……菓子つくりが好きだ」


 最後に自己紹介したアルベルトという男は灰色の細い目つきとは対照的にかなりファンシーな趣味をしているみたいだ。この身なりで部屋にぬいぐるみとかいっぱいあるやつも見たことはあるけれど、アルベルトがそうであって欲しくはない気がする。それくらい顔も整ってるし、男前だった。


「一通り終わったね。さっさとこのくだらない茶番を終わらせようよ。今日の午後には卵が格安で風遊スーパーで売ってるんだ」
「お前入学式よりタイムセールが大切なの?」
「当たり前でしょ? 入学式なんてただ新しい学校に入ったって証明する区切りの行事だよ。そんなのなくても僕は朝起きた時から毎日区切りをつけれる」
「へー。どんなことしてんの?」
「今日のことは今日して寝る」


 確かにそうだけどさと言いたかったが、早乙女はまじで言っているみたいだ。スルーが一番みたいだな。


「ここで宝物見つけて卵もらったらいいじゃねーか」
「タダより怖いものはないよ」
「そう? 私はタダならありがたくもらうけどね。有料でもタダに近い値段にしてから買うし」


 鷹野が真面目に怖い。見た目は本当に胸部を除いて普通なのに。と思っただけで鬼の形相で睨まれた。読心術でも身につけているのか。なんにせよ。鷹野の前では迂闊に変なことも考えられない。


「で、宝物の手がかりを探すんだっけ?」
「どんな宝物だろうなー。可愛い女の子だったりして」
「俺、男を女に変えてほしいな……」
「あ! それわかるかも!!」


 意外なところで平城と川村が意気投合している中、グラウンドでざわざわと変な騒ぎが聞こえた。きっと手がかりをみつけたやつらが現れたのだろう。
 その声に引き寄せられるように走ってグラウンドに向かったら、グラウンドには人がばっさばっさ倒れていっていた。その中心にニタリと笑う黒髪の女。


「手がかりなら、私が知ってるよ。私を倒すか、口を割らせられるなら教えてあげる。
 全員かかってきなよ。全員ぶっ倒してこの騒動止めてみせる!!」


 その騒動というか、問題を起こしているのが貴女なんですが。
 そんなつっこみより、柴谷の悲鳴が校内に響き渡った。



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