タダイマ
今思えば、フィオレを密告したのはオズベルトの仕業かもしれない。フィデリオ、もといーー私が新たに名付けた実を貶めたのもあの男の仕業かもしれない。
それさえどうでもよくなるほど、フィオレは不可解な死を迎えた。結局引きこもり、考えに考えて悟ったのはフィオレがよく口にしていた「全てが正しくて、全てが間違っている」が答えなんだと思いました。
いえ、本当は答えなんてないのでしょう。
それが、世界であり、人間であり、化け物なのでしょう。
「あ、阿弥央! 美夜は、大丈夫か……!?」
「はぁ……戻ってはこれるでしょうが、もう貴方なんて目に入らない状態にまで壊れてますよ」
「な、なんでじゃ!?」
「彼女が向かった時代は、オズベルトの生きていた時代です。それに、壊れきった彼女を私は目にしたことがあります。この世界の彼女だったとはね……もう手遅れでしょう」
「じゃ、じゃあ、先にあのオズベルトを……!」
「逃がしておいて何を言っているのですか……」
「そ、それはワシが油断して……!」
「ほう。山を半壊させておいて油断ですか」
「う、うう……」
うなだれるシバに視線を移すこともなく、私は空を仰いだ。とても青く、美しい。あるものは、やはりきれいだ。
そして、少し息を吸った後、青空に吐き捨てる。
「でも、あの二人はちゃんと互いをおもってますよ。男女が一緒になることは、ハッピーエンドではないのですか?」
何が幸せで、何が不幸せかわかっていない私が言った所で、無意味なことですね。
▽△
幸せだ。
きっと、私は幸せなんだろう。
どこかもわからない狭い空間に、私はオズがくれた服のみを身にまとっていた。
帰ってきた場所はオズの屋敷で、その屋敷の地下に私は閉じ込められている。時々何処かへ行くけれど、絶対に帰ってきてくれるから怖くはなかった。
足のアキレス腱を切られて、自分で動くことはできない。だけど、車椅子で動くことはできたから、地下の空間で生きていくことに支障はなかった。
オズ以外目にすることないようにとつけられた包帯も、慣れてきたのか何も見えなくても料理位は作れるようになった。
そして、アイツが帰ってくる。
私の視界を遮る包帯をはずして、キスをしてくれる。
私だけを見てくれる空間、絶対に消えてしまわない体。
私は、そんな最高の相手に頬を緩ませて迎える。
「ただいま」
彼は、私にそう言ってくれた。
私は、そんな、彼に腕を伸ばして甘えを口にする。
ほら、もっと私を溺れさせてよ。
私に溺れてよ。
求めてよ、求めさせてよ。
貪欲な化け物は、薄く笑った。
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