ヒロ様とコラボリレー | ナノ


マタイツカ

「お前が何かしたんじゃないんすかああああああ!?」
「ツバキ、落ち着いて」
「いくら伯爵の頼みでも、これっばっかりは無理っす! メイド服の一件からおかしいとは思っていたンス!コイツは人間のクズっす! なら、ツバキが」
「ツバキ!」


 オズに連れられて屋敷に戻るものの、ツバキさんが私とオズをみるなりオズにつかみかかろうとした。カインさんはそんなツバキさんを止めている。
 隣でオズはけらけらと笑いながらツバキさんを見下ろしている。


「カイン。君のメイドは躾がなってないね。ちゃんと調教したら?」
「……貴方が言えることでもないでしょう。最も、貴方自身は貴方の人格に問題がありそうですがね」
「くすくす……最高の誉め言葉だよ。でも、これは決定事項だ。彼女は今日をもってこの屋敷のメイドを解雇する。行くよ、夜美」
「……うん」


 オズに促されるまま、二人に背を向けた。
 わざわざ私をここにつれてきたのは、私が自分の意思でオズについていくと示したかったからなんだろうか。
 ツバキさんの怒号に、罪悪感がつのる。
 だけど、私なんかといたら、最悪死んでしまう。私の破壊衝動がおさえられなくなって、ツバキさんを、カインさんを殺してしまうかもしれない。
 なにより、共にいてもいずれお別れしなきゃいけなくなる。

 ふと、オズが立ち止まった。私も一緒に立ち止まると、ジオが怖い顔して、行く手を阻んでる。


「……何をしているのかな? でき損ない」
「黙れ。お前、フィオレやフィデリオ、そして夜美に何をした?」
「……くすくす。証拠もないのに疑うの? だから普通の人間に相手してもらえないんだよ」
「違う! 絶対にお前だ! フィオレはいきなり魔女裁判にかけられた。フィデリオは行方不明、そして夜美は……以前の生気が抜けたようだ。こんな立て続けに私のまわりで不幸が起こって……!!」
「あ、そういえばあのアドルフって男女が呪いとかかけてたね。それじゃないの?」
「阿弥央はそんなことしない!!」
「はぁ? 誰だって? もういいや。行くよ」


 ジオはオズの横を通り抜ける。私もジオの隣を通りぬけようとしたら、ジオ腕を捕まれた。
 とても悲しそうで、なんでと母親に訊ねる子どものような顔だった。
 だけど、ジオは目を見開いてすぐに手を離した。私の腕とジオの腕があった場所に、ナイフが空振りする。


「触るな」


 オズが、私の肩を抱き寄せてジオに吐き捨てた。
 そして、そのまま私の手を握って屋敷から遠ざかっていく。
 虚しさと、疑問だけ残して立ち去っていく私たちを見送る皆に、心の中でごめんを繰り返すしか出来なかった。


▽△


 阿弥央は、町外れにあるフィオレの家にいた。正確には灰になった家の残骸に座っていただけだけど。
 近づいた私やオズに気づいてこちらに顔をむける阿弥央の表情に、何時もの覇気は見当たらない。
 フィオレにそっくりになった阿弥央はこちらに近づき、振り絞った声で口にした。


「約束は、果たそう。こっちだ」


 阿弥央は、背を向けてある方向へ向かう。
 オズと私がそのあとに続き、阿弥央が人差し指を示した先には、扉だけが存在していた。


「この扉をくぐれば、貴方がいう世界に繋がっています。私が作ったのです。心配はいりません」
「阿弥央……その口調」
「……ふふ。私の名前を知っていましたか……あちらでは、深い仲なのですね。……皮肉なものです。フィオレの肉体に憑依しても、彼女のふりをしても彼女を理解できない。……おそらく、気をゆるした人間なのに、何も理解できない。……しかし、時間はあるんです……ゆっくり、探しますよ」


 自嘲気味に笑っている阿弥央は見ていて痛々しい。これが本当の阿弥央なんだと、手を伸ばして慰めたかったけお、オズに邪魔された。そのまま扉の前まで誘導された私は、最後にオズと向き合う。


「オズ、……私がオズに出会うのは、かなり先の話だよ」
「僕も忙しいからね。時間については問題ない。まぁ、それまで遊べないのはつまらないかな」
「…………」
「楽しみは、最後にとっておくんだ。だから、覚悟してなよ」


 最後に、にやにやと笑いながらオズは私のおでこにキスをした。
 なんでだろうね。それが嬉しかった。
 完全に狂っているのに、ずっと側にいてくれると言ってるようなもので、どうしようもないけど、本当に嬉しかった。
 だから、最後に笑みを浮かべただけで、私はその世界を後にした。

 一度も振り返らずに、私は戻る。
 きっと、変わらず、貴方は先で待っているから。




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