ブキヨウナンデス
「夜美、大丈夫っすか。セクハラにあってないっすか」
最近、ツバキさんがやたらと私を心配してくれている。パンの生地をこねながら、私はツバキさんの問いかけに答えた。
「ううん。掃除してたら腰とか、お尻とか触られたりするけど・・・・・・たいしたことは」
「アウトっす! いくら伯爵の御祖父様でも許されないことがあるっす! ということでツバキはロリの平和のために今からあの黒髪を討伐に」
「ちょ、ちょっと待って!」
手をさっと洗って、水を拭い、ツバキさんの手を掴んだら、険しい顔をしていたツバキさんの鼻から、血が噴き出した。
「えっ!?」
「ロリの手、ぷにぷにで小さいっす・・・・・・あと、上目遣い超かわいい・・・・・・ツバキが男だったら、男だったら・・・・・・! いいや! 気持ちがわかろうともそんなことは絶対しないっす! ロリコンに誓って!」
「ツバキさん落ち着いて。何言っているかわからなくなってるよ」
はぁはぁと息を荒くしているツバキさんの鼻をタオルで抑えながら、私は苦笑を浮かべた。なんか血が止まらないみたいなんで、上を向くようにいってる。あれ、この場合下向いたほうがいいんだっけ? でも、今のツバキさんの血の量は致死量ではないかと錯覚するほどだ。
ソファーに運んで寝転がす。だけど、顔が少し高めのほうがいいかなと膝枕したら、さらに鼻血が溢れてきた。
「うそ!? つ、ツバキさん大丈夫!?」
「もう、このまま死にたいっす・・・・・・」
「ダメだって! ど、どうしよう・・・・・・!」
「どうしたの?」
あわあわと真っ赤に染まったタオルをツバキさんの鼻におさえて泣きそうになってると、かわいい男の子がこちらを心配そうに見てきた。
リズとあまりかわらない。もしくは年上だろう。リズもショタでかわいいんだけど、目の前のショタは別格だった。その仕草に心臓が高鳴って、私の動きが完全に固まる。
その男の子は不思議そうにこちらを見ている。それがもう可愛くて可愛くて・・・・・・。
私まで、鼻から血がでてきた。
「え、ええ!?」
「かわいいかわいいかわいい・・・・・・!!」
「ショタまでお迎えに来たみたいっす・・・・・・ツバキは、もう満足しました・・・・・・」
「君達なにを言ってるの? 目を覚ましなさい!」
ぷんぷんと怒る仕草ももう愛らしくて、私もやばい状況になってた。
ふぅと息をついたショタはなにかを思いついたようで、一度そこから姿を消した。そして戻ってきたときに、二つの袋が彼の手に握られていた。その袋の中には氷が入っている。
「はい。これを鼻の上にあてて。ちょっとはましになるはずだよ」
「あ、ありがとう・・・・・・」
「すみません・・・・・・伯爵」
「伯爵?」
ツバキさんの言葉を、思わず反復してしまった。そして、ショタをまじまじと見つめる。
黒い髪に、赤い瞳。それはカインさんと同じだ。そういえば、身のこなしも優雅で上品。これは決定的な証拠だろう。
わなわなと震えながら私はカインさんを指差してしまった。だって、姿が変わりすぎている。
「薬の副作用なんだ。だけど、ツバキはこの姿にさせるためにその薬を使いたがるから、あまり使いたくないんだけど」
少し寂しそうに笑みを浮かべるカインさん。私は驚きのせいか、鼻血が止まっていた。
私の膝に頭をのせたツバキさんを見て、溜息をついたカインさんが、私にのいたほうがいいと言ったので、言われた通りのいたら、少しましになった。
「あれ・・・・・・こっちの方が止まると思ったのに」
「君の外見として、その行為は逆効果だね」
「・・・・・・?」
「君も好きな子に膝枕されたら、恥ずかしいでしょう?」
カインさんは首をかしげながら私にいう。
私は、そのカインさんの問いに、自分でも驚くくらい穏やかな笑みを浮かべられられた。
そして、ツバキさんの介抱を続けるカインさんに今の気持ちを伝える。
「・・・・・・そんなことされたら、吐きます」
「え」
「ないないない! アイツが膝枕! きもちわる!」
「・・・・・・そこまで侮辱しなくても」
「絶対しませんよ! いや、されたら嬉しいだろうけど絶対見下されるでしょうし!」
「・・・・・・君や祖父の愛情表現は、少し素直でないね」
「え」
「いや、こっちの話だよ。それより、替えの氷をもって来てくれないかい?」
「は、はい」
カインさんに言われるままに、私は台所へと向かっていった。
どうせ、私はアイツの手駒なんだ。愛してくれるはずがない。
どれだけ好きと言っても、行動にしても届かない。
人形が、主人に本当の意味で愛されないようにね。
冷たい氷を袋につめながら、そんな冷めたことを思っていた。
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