クヤマレマス
あの告白から、私はオズの部屋には行ってない。というか、あんな恥ずかしいこと言ってしまったら行けるわけないじゃないか。
だけど今日、また新たに行きたくない事実を叩きつけられた。
「む、息子ぉ・・・・・・?」
「ああ、不本意だが、本当のことだ」
カインさんと私はジオに呼び出されて(でも集合場所はカインさんの部屋だった)聞きたくなかったことを知ってしまった。
好きになった男が、子持ち。しかも孫まで。
年はもう自分も言えたものじゃないから別にいい。だけど、流石に子持ちは、辛いわ。
少し体がふらついたが、カインさんが一瞬支えてくれた。カインさんまじ紳士。
「・・・・・・夜美は、御祖父様に幻滅した?」
「当たり前だろう! あんな女す」
「父上は黙ってください。だいたい貴方が言えることではないでしょう」
ジオも確か、浮気性だったけか。どうやらあの男の悪いところと顔は受け継いでしまったらしい。
カインさんの優しい問いかけに、私は自分を見つめ直せた。もし一人なら、またいろいろ考えて気持ち悪くなっていただろう。
「それでも、やっぱりあの人が好きです」
「・・・・・・だああああああ!!」
「父上、だから貴方は少し」
「あんな人間のクズが愛されるなんて、世の中間違っている!」
「父上、自重してください。あとで話は聞きますから、夜美の前では」
「え、でもクズなのは認めますけど」
「だろう!?」
「・・・・・・私には何が何だかわからないよ」
やれやれと肩をすくめたカインさんの前で私とジオはいかにオズが最低かの話題で盛り上がっていた。
そして、だいたい話終えた後に、だいたいの掃除だけ済ませて屋敷の外へ出てみた。空気を吸って、一人で考えることも大切だと学んだからだ。私のことだから、またややこしく考えて誰かに助けて貰うんだろうけど。
先ほど、ジオと話していた効果か、オズに対する羞恥心よりまた苛立ちが胸を支配した。
なんで、私に近づいたんだって、知らないほうがお互い良かったんじゃないかって。
子どもがいたなら、子どもと奥さんを大切にしたら良かったんだ。私なんか、興味本位で近づいていい生き物でない。
「・・・・・・そういえば、アイツの奥さんって・・・・・・」
もしかしたら、亡くなっているのかもしれない。その寂しさを紛らわす為に、やっぱり適当に私を選んだのかな。
最初に出会った時の女の人の名前や、抱いてほしいのかと軽々しく訊ねるオズを思い出すと有り得なくもない。
思わず溜息が漏れる。空を仰ぐと、既に空は黒に染まっていた。普段ならそろそろ屋敷に入れと言われる。・・・・・・もしかしたら、カインさんかツバキさんが気をきかせてくれたのかも。本当にできた人だ。
大きく息を吸って、これから未来へ帰る方法見つけたり、家政婦の仕事も頑張らないと、と意気込もうとしたら、足音が近づいてきた。
闇から、こちらに歩み寄ってきた男の黄緑色の瞳が私を捕らえる。
「ねぇ」
「え、な・・・・・・」
「確か、夜美だっけ? 変な名前・・・・・・」
オズの意地悪に反応することもなく、なんでここに居るんだと口にできないまま唖然と彼を見つめていたら、オズが口を開く。
「ねぇ。君って何? 本当に訳がわからないんだけど。大嫌いってぶん殴っておいて、今度は好きとか。で、抱こうとしたらそれも嫌。そこから部屋には一切来ない。何様なの? 本当に意味がわからないんだけど。金が目的? それとも地位? 僕の顔? 何が目的なの?」
着実に距離を縮めていくオズに、私は身動きがとれなかった。
そして、私自身もオズがわからなくなった。
金が目的? そんな訳が無い。私は物欲がほぼないし、第一金なんて稼ごうとしたら、人殺しですぐ稼げる。
地位って、オズの地位すら何かわからないんだけど。だいたい全てを破壊する化物が一定の場所にずっといるわけがないでしょ。
オズの顔? 確かに大好きだよ。だけどさぁ、顔が良くて性格がいいやつなんてたくさんいるじゃん。
だいたい、お前からだよ。私に関わってきたのは!
もう目の前まで来ていたオズ。そんな彼を見上げて目の下に少しクマがあることに気づいた時、殺気がオズの後方から感じた。
「オっ・・・・・・!?」
「ねぇ、聞いてるの?」
頬を片手で鷲掴みされて、激しく動いたらオズの手を怪我させてしまう。
私は右手でオズの腕を掴んで、右へずらした。目を丸めたオズに、銃声が三回、夜空に響き渡った。
「がっ・・・・・・!」
「っ!」
一発目は、私の左胸を貫通した。すぐに治るが、一瞬の激痛はできれば味わいたくない。
二発目は、不発。どこかに飛んでいったらしい。
三発目がオズの右肩を殺っている。
身の毛がよだった気がした。地面にくずれるオズの腕から手を離し、私は実行犯の方角へ駆け寄る。
実行犯は私に気づいたのか、私に向かって何発も発砲していた。
こんなことをしても、無駄なのに。
弾が切れたんだろう。慌ててそこから立ち去ろうとする影を見つけて、私は地面を思いきり蹴り上げ、走ってきたスピードと跳躍の勢いに任せてその実行犯を蹴った。
ぐちゅりと彼の腹に私の足が貫通する。ショック死なようで、足を引き抜くと倒れた。
命は恐ろしい程簡単に奪える。ああ、もっと苦しませるべきだった。
そう悔やむも、オズ自身が一人だったことを思い出して、急いで元の場所に戻った。
オズはいた。だけど、何か目をかっと見開いて、笑みを浮かべている。
オズからさっきと違う臭いがした。戦場というよりは、クロウが私に嗅がせて覚えさせた。即効性の毒の臭いによく似ている。
「お、オズ!」
「・・・・・・うるさい」
「やだ、死なないで。さっきのやつ殺したから、大丈夫だから!」
「・・・・・・は?」
眉をしかめてこっちに顔を向けたオズの肩の服を破いた私に、オズは言葉を失ったみたいだ。そして唇を肩に寄せて、毒を吸おうとするとオズは体をひこうとする。
「だめ! じっとしてて!」
「何してるのさ!」
「毒吸ってるから、死なせないから!」
「勝手なことする・・・・・・っ」
右手でオズの手を握って、痛みを少し消した。これから、痛覚に多少鈍くなるだろうけど、今は緊急事態。仕方がない。
舌で血や毒を舐め取りながら、弾丸の存在も消した。妖力というか魔力というか・・・・・・これほど破壊神であることに感謝したことはない。
息が荒かったオズが、少し目を細めて私の肩に頭をのせて、全体重を任せた。息をしているところをみると、寝てしまったらしい。
「・・・・・・楽観的なやつ」
そうぼやいて、私はオズを抱き抱え、屋敷へと戻っていった。
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