ダイキライデス
三つ編みに結っている黒い髪に、左側の前髪にヘアピンみたいなものをつけているのも変わってない。
だけど、同じ背丈ぐらいだったのに、目の前のアイツだろう存在は黄緑色の瞳で私を見下ろしていた。
ああ、そっか。この時代にオズは生きていたんだ。
それじゃあ、私を知らなくて当然だよね。
だけど、胸のムカムカが止まらない。冷たい視線で見下ろしている男の顔面を殴りたいくらいにはイライラしてしまっていた。
「・・・・・・ああ、なるほどね。最近メイドが増えたとかそんなこと言っていたっけ・・・・・・最近下が騒がしいと思ったら、君が原因か」
「・・・・・・オズ、ベルト」
「へぇ。僕の名前知ってたんだ! アイツにでも聞いたのかな? でも、アイツが僕の話するなんて反吐がでる。で、僕になんの用? もしかして、抱いて欲しいの?」
どうやら、変態なのも人を小馬鹿にした態度も相変わらずらしい。この時点で他人なんだから、多少は自重すると思ったのに。
そして、やっぱりてめぇはどうでもいい女でも抱くんだな。
ムカムカが頂点に達しそうになるが、歯を食いしばってアイツを睨みつけた。アイツはすこし目を丸めて、くすくす笑い出す。
「へぇ、チビのくせに威勢だけはいいんだね」
「黙れ」
「あれぇ? ここは僕の部屋だよ? うるさいなら何でここに来るのかな? 矛盾してない? もしかして無駄なことが大好きなキチガイなのかな? はは、ウケる」
本当はすごく会いたかったのに、本当は、泣きたいのに。
何で、こんなに私は怒って、泣いて、嫉妬しているんだろう。
暴力にはしったら、化物だと言われる。爪が手にくい込むくらい握り締め、私は抑えられない衝動を言葉にした。
「女なら、誰でもいいんだ! 私みたいな胸ない初対面の女でも!」
「何、怒ってるの? 意味わからないんだけど」
「す、好きなやつだけ好きにしたらいいって言ってんじゃんか!」
「好きにしていいやつしか好きにしてないよ」
「お、お前・・・・・・!! この、女たらし! アホ! クズ!」
「ちょっと、いい加減にしなよ・・・・・・というか、もしかして、僕、昔君を抱いたの? おかしいなぁ・・・・・・アニタより小さいなら、覚えてると思うんだけど」
どの女の名前だ。
その言葉に我慢ならず、私は腕を後ろに引いて軽く、といっても男の本気くらいの威力はあるパンチを腹にくらわせた。そのまま部屋の中にふっとんだオズに、壁にぶつかり、咳込みながら私を睨みつける。
ああ、やってしまった。
自分の拳に視線を落とすと、ぽたぽたと涙が拳に落ちていく。
くそ、くそ、くそっ!!
「てめぇなんて、大嫌いだ!!」
そう吐き捨てて、私は部屋から出て行ってしまった。
止まらない涙に、階段を駆け下りたら騒ぎを聞きつけたのか、リズとレンが心配そうにこちらを見上げている。
私は二人をみたら、もうせきをきったみたいに声を上げて泣いてしまった。
わかっていたんだ。私は誰かの一番なんかになれないなんて。
誰にも、見てもらえない。否定しかされない。消えて欲しいとしか思われない。
この世にいてはいけない化物だって。
わんわん泣いている私を、レンはぎゅっと抱きしめてくれて、リズはハンカチで涙を拭ってくれた。私の声を聞きつけ、凄まじい勢いでこちらにきたツバキさんが、私を見て怒ってくれていた。上に何かあると思い、ツバキさんは階段を登ろうとすると、カインさんと一緒に現れたジオがツバキさんを止めて、ジオ一人で上へ登っていってしまった。
泣きくじゃる私の頭をカインさんは撫でる。
「ツバキ、リズ、レン。三人はこの階段を登ってはならないよ。あと、夜美はすこし話をしよう」
「でも、」
「父上が対処してくれている。大丈夫だよ。普段はああでも、やるときはやる人なんだから」
ツバキさんの反対に、カインさんは答える。
カインさんの提案に、私は頷いて彼の後をついていった。
迷惑をかけてしまった。お門違いな嫉妬なんだから、私が悪いことをしたのは明白なんだ。
だけど、なんでだろうね。
やっぱり、他の女といるあんただけは見たくなかったんだ。
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