アンシンシテクダサイ
夢の中で、私はある男に股がっていた。
その男の身体から、臓器がはみ出ていた。またおぞましい死体を作っていたのかとその男から退こうとする。だけど、体が動かない。
男の顔が、見えない。
怪我をしていない、綺麗なままなのに、誰か分からない。
「貴方は……誰……?」
▽△
「う、ぅ……」
「うっ、ひやぁああああああああ!! ロリのうめき声いいッス。す、スカート着せちゃダメッスかね……!! あああ、カイン坊っちゃんの生足とセットだったらマーベラッ」
「ツバキ、病人の横でそんなこと言ってはいけないよ。あと、半ズボンなんてはかないから。はしたない」
「ええええ!?」
「だから、声を大きくしない」
うるさい。
ムクリと上半身を起こした。一気に起こしたから、その場にいた人間は少し目を丸める。
瞼を開いたら、視界にはタオルを手にしたメイドと椅子に腰かけた若い青年がいた。
……あれ? アイツは……?
キョロキョロと辺りを見渡しても、オズベルトの姿が無かった。
ドクリ、と心臓が脈だつ。動悸に襲われて、吐きそうになった。
どうしよう。アイツが居ない。まさかあの時アイツは消された? もう居ないの? 私は、一人なの?
震える自分の身体を抑えて、抑えられない涙を流していると、頬を伝う涙を誰かが脱ぐってくれた。顔を上げると、さっき椅子に腰かけた青年が、私の頭を撫でて穏やかに微笑を浮かべている。
「大丈夫。ここには君を苦しめるものはないよ」
「……ちがう、の……私、一人なの……」
「……私やツバ……、この女性が君についてる。だから、一人じゃないよ」
「もちっス! このツバキ、許されるのなら永久的にロリをストーカーする所存ッス!」
「うん。ちょっと黙っててね、ツバキ」
「はい!」
変な人たちだ。
私のことを、知らないのかもしれない。
知らないから、そう言えるんだろう。
無知は、罪だ。
「……ありがとう」
私は何百年も生きる人殺しの化物だと知ったら、この人達も怯え、私を軽蔑するんだろう。
だけど、オズベルトが居ない今、私をギリギリに保つ為にはこの人達を利用するしかなかった。
でなければ、孤独に殺されてしまう。
「……いろいろ、大変な目にあってきたんだね」
未だに私の頭を撫でてくれてる青年は、きっと優しいんだろう。ちょっと、暖かくなった心に、睡魔がまた襲ってくる。
「君が落ち着くまで、この屋敷に住めばいいよ。だから安心してお眠り」
「……ん」
「伯爵! よければ私が彼女の隣で寝かしつけ、」
「ツバキ?」
「すみません!!」
なんだろう。
こんな暖かい気持ち、何時ぶりだろうな。
ニヤニヤと笑って、私を小馬鹿にするアイツを思いながら、私は意識を手放した。
▽△
化物、化物と皆離れていく。
化物なのは知っていたけど、何時からか悪化していた。
何がキッカケだったのだろうか。私には分からない。
でも、化物と言われて苦しんでる時に限って、アイツが現れて私をバカにした。
何で出てこないんだよ、バカ。
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