女王様の退屈しのぎ
僕は何も悪くない。
こんな台詞、状況によればヘドが出るほど気にくわない台詞だが、今は違う。むしろ、僕は何もしていない。
『ここが風遊高校なんかぁー。ふにゃー! 凄いなぁー! でっかいなぁー!!』
何もしていないはずなのに、何でこんな仕打ちを受けなきゃならないんだ。
僕の浮上に浮かんでいる白装束で、長い白い髪を横に一つまとめ、白い肌と白一色の中、唯一色合いのある目は血のように真っ赤と不気味な女の名前はトモ。本人が覚えていたことの一つだ。
もう一つは、自分を幽霊にした人物の特徴。と言っても、自称オオカミ女しか分かっていないんだ。つまりほぼ記憶喪失状態。
何かの冗談なのか? そんな幽霊が僕にしかみれなくて、さらに成仏するために僕まで協力しなきゃいけないなんて。しかも強制だ。
ここまで理不尽な扱いを受けたことはない。
『なぁなぁ! 春樹! 今からなにはじまるん!?』
「(うるさい。僕に話しかけるな)」
今まで、トモと話す場合は人目を気にしないと独り言を口にしまくっている変質者のように扱われると予想して、話さないようにしていたが、コイツ僕の考えていることを読みはじめた。
つまり、テレパシー。
そんな能力、いらないんだけど。
『なんでーよ!!』
「(……チッ。入学式だよ。話でも聞いとけば?)」
ただでさえ、無理矢理成仏の手伝いをさせられているのに、これ以上世話を見なきゃいけないなんて僕の義務にはないだろう。人のぎゃーぎゃー喚く声は耳障りで大嫌いなんだ。
トモは納得いかないようだったが、校長に目を向けたことによって僕への不満を誤魔化したようだ。
僕自身も、一言くらいは校長の言葉を耳に入れようと前を向いた。
『…………たりぃ』
こんなやる気のない校長は始めてみた。
ぼんやりと遠くを眺めていた校長は、大きなあくびをする。そして、その場を後にした。
「次に、教頭の挨拶ですー…」
『え。今ので終わり?』
「…………」
この学校はどうかしてる。家が近いからってここにするんじゃなかったかなと後悔し始めた瞬間、祭壇に一人の女がドヤ顔を浮かべ、胸を張って現れた。
『…………つまらない入学式と思いませんか?』
一つにまとめられている腰あたりまで伸びた艶やかな黒い髪を払い、うっすらと笑みを浮かべた教頭は教壇に両手をついた。
『だから、今から入学式を中止し、新入生歓迎行事を開催するわ』
ざわざわと、新入生はざわめきあう。
不思議なことに、保護者も生徒も非常識だと訴えるものはいないらしく、輝かせた目を教頭に向けている。それを満足気に見下ろした教頭はルール説明をしはじめた。
『ルールは簡単。この風遊高校の何処かに隠された宝物を探し出せばいいわ。その宝物が何かは今、私達は教えない。
ただし、ヒントならこの校内を探したら直ぐ見つかるわ。手に入れられたらの話だけど……』
「篠崎教頭! 入学式を中止するとはどういうことですか!!」
他の教師に抑えられてるにも関わらず、引きずって祭壇の下まで現れた黒髪の教師は篠崎教頭を睨み付ける。篠崎教頭は汚いものを見てしまったかのような表情を浮かべた後、微笑を浮かべてさっきの校長に顔を向けた。
「校長。これは校内の見学にもなれますし、友達をつくる絶好の機会になれます。いいですよね?」
「あー…。いいんじゃないかなぁー…」
「校長がそんな態度でいいと思っているんですか!?」
「風来、落ち着きな! アンタが何を言おうとあの二人を止められやしないよ!」
「そーそー。面白そうだしな」
「麻生先生! 田村先生まで!!」
教師陣の方が何か騒がしいが、篠崎教頭はお構い無しにマイクを握りしめ、教壇の前に堂々と立った。
『宝物を手にした生徒は、可能な限り願いを叶えるわ! ただし、宝物を手にすることが出来るのは二名。
ただし、願いの内容は統一しなければならないこと。一人で独占も可能とするわ。
さぁ、私を楽しませなさい!!』
高らかに笑うように、篠崎教頭が宣言したと同時に、欲望にまみれた宝探しゲームが幕を開けた。
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