貸し借りなし
二度目の出会い。違う。再会だった。
だけど、相手の方は私のことなんて覚えているわけないし、下半身は一応人間になっている。
最後に会ったとき乱暴にされかけたのに、どうしてもその黄緑色の瞳が忘れられなかった。
どこか異常性を感じられる瞳に期待せずにいられなかったんだ。
「…………ま、一応感謝してやらないでもないよ」
かなり、上から目線だった。こっちは守ってやったのに、なんだその態度はと、まぁ自分の勝手にしでかしたことだから感謝を求めるのもおかしな話だろう。
だけど、オズベルトは私に皮肉めいた笑みを向ける。なにかオズベルト自身にしたのかと首を傾げるとオズベルトは語りだした。
「……で、何が望みなわけ?」
……こいつ、何を言っているんだ?
望みって、どういうことだ?
「助けてもらったんだから、お礼しなくちゃね。何がいいの? 土地? 地位? 金? 物? 何が欲しいのかな?」
ニコニコと笑みを浮かべ続けるオズベルトを、私はやっぱり理解できない。
この異常性は人間と私のギャップなのだろうか。いや、違う。
こいつは私ときっと同じなんだ。たった一人しかいないバケモノ。
ああ、楽しいし、嬉しい。だって、自分に限りなく近い生き物が側にいるんだ。それも、生きている。
それを伝える術を持たない私は、ただくすくすと笑っていた。気にくわなかったのか、オズベルトは眉間にシワを寄せる。
「何笑ってるのさ」
「……ぁ、ぁ……」
「……何を言ってるの?」
私は喉に指を指した。そうすることで相手側は私が声を出せないことを悟るようだ。オズベルトもそれが通じるみたいでああ、と納得したような声を漏らした。
「話せないんだ。じゃあ字は書けるよね」
取り出されたメモにペンを差し出したオズベルトに頷いた私はそれを受け取った。
何を書けばいいのかな。まず、最初の返事だよね。
ペンを紙の上に滑らせてオズベルトに見せると、オズベルトの目が真ん丸に見開いていた。
「……何もいらないって、どういうこと?」
私は、その返事をまた書き出す。
『アンタが生きてるだけでいい。いらない』
「は……? 意味がわからないんだけど……。弱みでも握りたいの?」
『そういう訳じゃない』
「じゃあ何で怪我してまで見ず知らずの人間を助けようとするわけ? 自己犠牲者なの?」
どこか冷たいオズベルトだった。私を警戒しているのかな……それでも、怖れてないからいい。まだ、いいんだ。
『理屈とかで動けるほど、私は賢くもない』
「……あっそ。本物のバカだってことは理解したよ」
そっぽを向くオズベルトに、もうちょっとこちらを見てて欲しいな、顔をみたいなと顔を覗きこむ形をとったけれど、急にオズベルトがこちらに顔を向けて、私を見下ろした。
「怪我が治るまでの身の回りの世話はこの屋敷で済ませるといい。これで貸し借りはなしだ」
そのまま部屋から出ていってオズベルトの背中を最後まで見送った私は、呆然と宙を眺めていた。
オズベルトの周りにいられるのは嬉しいけど、風来さん心配してるし……目的である護衛ができない。あ、それをお願いしてもよかったかもしれない。
……しかし。
『(怪我、もう治っているんだけどな)』
誰が私の肩に包帯を巻いたのかわからないけど、ほんの少しだけここに滞在するきっかけになったのはありがたい。
そっと包帯に指を這わせながら、私はこれからどうするか思い悩んだ。
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