謹賀新年を祝いましょう
双様宅とコラボ! 年賀祝い文で我が家の冷泉紫苑くんと双 様宅の花鳥千歳ちゃんがだべってるだけ
「あけましておめでとう」
「…おめでとうございます」
どうしてこうなった。 花鳥千歳の心境は、この一言に尽きる。
年明けの挨拶の応対が一段落したところで、不意に現れた黒塗りの高級車に乗せられ、冷泉邸へと連れていかれたのだ。
大きすぎる応接間に入ると、そこには、冷泉の若君こと冷泉紫苑がいた。以前見た時にはきちんと制服を着込んでいたが、今はだらしなく着流しを着て、上に大きめの羽織りをかけている。髪、そして瞳とお揃いの色合いは品があり、だらしない格好でいるというのにはしたなくは見せなかった。
対する花鳥も、元日ということもあり、色艶やかな着物に身を包んでいた。花鳥家を代表する存在である故に、下手な着物であるはずがない。その着物を見て、すぐにその値打ちがわかったのか、紫苑は少し身体を起こし、花鳥を見つめた後、座るように無言で示した。それに従い、腰を下ろす。そして、冒頭の台詞へと繋がる。
二人が向かい合ってしばらくして、女中らしき人が数人音もなく現れ、二人の前に食膳を並べていく。豪勢な料理に事情を掴めないでいると、前に座った紫苑が 一言、「食べなよ」とだけ言う。
彼が食べ始めたのを見て、花鳥は少し毒の混入を疑いながらも一口二口と口にしていく。とはいえ、意外にも特に何も入ってはおらず、当たり前のように、食事は美味しかった。食べながら、花鳥は先ほどからの疑問を口にした。
「……若君」
「なに、花鳥のお嬢様」
「…どうして、私を?予定も入れずに連れてこられてしまっては、こちらの挨拶回りに支障が出てしまうのだけれど…」
突然のことだった。冷泉家の使者であるとわかったから呼び出しに応じたが、あまり長く滞在するわけにはいかない。そう言外に告げたが、紫苑は至って気にした風もなく、のんびりとした口調で答える。
「何か言われたら、冷泉の名前を出せばいい」
「そんなことは…」
「こっちが無理矢理連れ出したんだ、気にしなくていいよ」
取り付く島もない。帰してくれる様子もなく、ついには日本酒まで飲み出してしまった。再び、先ほどの女中が食膳を下げにくる。花鳥もお酒を薦められたが、 相手の目的がわからない以上、酔うわけにはいかないとやんわりと断る。それも特に気にせず、紫苑は飲み続けた。しばらくして、少し酔いが回ってきたのか、僅かにとろけた瞳を向けて、花鳥に語りかける。
「…あの人が、迷惑かけたね」
「…?」
「あの人、冷泉恭真」
意外な人物を示す名詞に、きょとんとし た。いや、冷泉紫苑は彼の息子である人物なのだから、違和感はないとも言えるのだが、如何せん先入観というものは恐ろしい。そっくりな見た目もあいあまっ て、彼の父親と同じように、常識外の人間だとばかり思っていた。
「でも、まぁ、あの人はそういう人だか ら、諦めて。彼が飽きるのでも待つのが一番じゃない?」
「はぁ…」
「今、あの人は挨拶回りが嫌で海外に逃げてるから。で、忙しくて逃げ遅れた僕が本家に捕まったってわけ。当主代行なんて冗談じゃないから、君を利用しただけ…花鳥家との会談ともなれば、まぁ口実になるでしょ」
いけしゃあしゃあと腹黒い魂胆を晒す紫苑に唖然となる。お詫びと脱走を同時に行うとは、やはりあの冷泉恭真の後継者といえよう。なんともいえない雰囲気のまま、日は暮れていく。
花鳥はとりあえず、冷泉の若君との会談になったから、しばらく帰れないとの旨を連絡した。そして、出された軽いつまみ程度の食事に手をつける。
軽く微笑んだ紫苑と他愛のない会話を交わしながら、とりあえずは紫苑の好意に甘えることにした。
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